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(え……だって、さっきまで落ち込んで……)
「太一君に……見せてもらったの。星宿がすごく心配してる……それに、朱雀を呼び出せば唯ちゃんと仲直りできるかもしれないでしょ?」
ひどく短絡的だな、と思いつつも、心がなぜか従え、と訴えてくる華に断る理由はない。先ほどまで話をしていた井宿の方を向いて頭を下げると
(説明はまた今度……ということでも、大丈夫でしょうか?)
そう尋ねた。
「構わないのだ。ちょっとずつでも話してくれるならオイラはそれで」
(ありがとうございます)
にこっと微笑むと、井宿も微笑み返してきた。すると。
「……華ちゃんが、笑ってる……他の人の前で……」
美朱が唖然としたようにつぶやいた。程なくして鬼宿が部屋へと入ってき、美朱のつぶやいた意味を井宿が問い出す間もないまま、四人は紅南国の宮殿へと戻る事になった。
「はぁっ!」
井宿がそう気合を込めるのと同時に、周りの景色が変わる。広い部屋、煌びやかな飾り付け。そして、目を丸くしている位の高そうな青年と、周りの人間。
一瞬にして四人は紅南国の宮殿へと戻ってきた。
「美朱!」
「星宿〜」
位の高そうな青年が、美朱の元へ駆け寄る。
「ただいま星宿」
「怪我などはしておらぬな?」
「うん!」
美朱の肩を持ったまま星宿が美朱を見つめる。そして安否の確認をした途端、力一杯、美朱を抱きしめた。
(……彼は……美朱の事を)
「だ」
二人の様子に、複雑な関係性を見出してしまった華が思わずつぶやく。その心の声に後ろから返事が返ってきて、思わず振り返った。
「……もしかして、心の声だったのだ?」
こくこく、と頷けば、バツが悪そうに井宿が頭を掻く。
「心の声と、伝える声。使い分けれるようになった方がいいのだ……」
(そう……ですね)
「そちたちは……?」
感動の再会を果たした後、位の高そうな青年ー星宿というらしいーは華と井宿を見ると問うた。突然の事に、自己紹介をし忘れていた事を思い出して、慌てて膝をつく。
「こっちは井宿。同じ朱雀七星士なの」
「だ」
ぺこんと頭を下げた井宿が照れ隠しに声を上げる。星宿は、目を輝かせるとふむ、と満足そうに頷いた。
「私は、星宿。この国の皇帝だ……あぁ、そう硬くならなくてもよい。して、そちらの娘は……」
「あ、あのね、私の友達の、雛月華ちゃんっていうの。四神の巫女なんだってー」
(はじめまして)
美朱の説明に頭を下げたまま心の中で挨拶をする。伝わったらしい星宿は驚いたように目を見開くと、華に近寄った。
「そなた……」
(不便かもしれませんが……私はしゃべれないので、これでご勘弁ください、皇帝様)
「よい、よいのだ。すまぬ……私も不躾だった。華、顔を上げよ。美朱の友人ならば私にとっても友人だ。普通に接して欲しい」
(……わかりました)
すっと立ち上がった華がぺこりと頭を下げる。そして鬼宿の方を向くと再び頭を下げた。
(あなたにも挨拶しておりませんでした……すまみません。華といいます)
「え? あぁ、そういやーそうだったな」
全く気にしてない様子の鬼宿に、ほっと安堵の息を吐く。そして、扉がせわしなくバターンっと大きな音を立てて開き、シンプルないでたちの女と見間違うかのごとく化粧をした柳宿が乱入してきた。
「美朱ー!」
「やだー柳宿ー!」
(柳宿……あぁ、朱雀七星士の1人ですね)
美朱と柳宿が抱き合う中、1人納得したように頷く。星宿は、その様子を眺めたあと、パンパンっと手を叩いて家臣を呼ぶと、部屋の用意をするように言いつけた。

(女……いえ、男ですね……その手も良いものです)
「華ちゃん、何を考えているのだ?」
(え?)
柳宿の姿を見て、いいかもしれない。そう思った華の思考を透かすように井宿が牽制するように声をかけてくる。華は逃げるようにジリジリと井宿から距離をとると。
くるっと向きを変えてその部屋から飛び出した。
「あ! 華ちゃん! あまり走っちゃ……っ」
美朱のそんな言葉も無視して走る。
「何も逃げる事はないのだー……」
開け放たれた扉を眺めながら、井宿は1人つぶやいて、ため息をついた。






(柳宿さん!)
気配を探って柳宿の部屋へとたどり着いた時には既に日は落ちきり、柳宿は部屋で化粧を直していた。そこに飛び込む、華。
あのあと、宮殿の細かな位置を知るために逃げるついでに下調べを始めた華は井宿の視界に入らないよう気配を探りながらゆっくりと宮殿内を歩いた。皇帝が住むだけあり、部屋数がバカにならずここまで時間がかかってしまったがちょうど良かったようだ。
華の気が常に動いていると知った井宿が、華が何かをしていると悟って、追いかけて来なくなっていたのだ。
「……え、と……華……だっけ?」
(はい、そうです。きちんとした挨拶もなくすみません……折り入ってお願いがあるのですが……)



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