今日だけ猫かぶり

最悪だ。なんで私がこんなとこに来なきゃいけないんだ。

「神楽ちゃん、行きましょ?」
「ウ、ウン」
返事をして自分を励ますと、姉御と一緒にドアを開けた。

事の発端は中間テストだった。
前代未聞の点数(今までも驚く程ひどい点数だったけど)をとった私は、私に甘いあのハゲでさえも、塾に行ってくれ、頼む、いやもう行かせるからと言われた。

塾なんて行きたくなかったが、自分でもこの点数は来年大学受験なのにあまりにもひどすぎると思ったので、体験位ならと渋々頷いた。

その事を姉御に話すと、だったら私の行ってる塾に来ればいいじゃないと言われた。
何でもその塾は規模は小さいものの、授業が面白く、教え方も上手いことで人気があるらしい。

どうせ行くのなら授業の楽しい(勉強に楽しいも何も無いのだが)ところが良いし、何より姉御がいるとなったら尚更だ。
それに断ったら姉御にころさ…いや、とにかくそこに行ってみようと思った。

そして冒頭に戻るのだが、ドアを開けるとすぐさまゴリラが飛び掛ってきた。
「おっ妙さァァァん!!」
「何抱きついてきてんだこのクソゴリラァァァ!!」

ギャアアア!!と声をあげながら吹っ飛び、泡を吹いているゴリラ。
あれ?塾ってこんな所だったっけ?

「ごめんなさいね神楽ちゃん。ゴリラが動物園から脱走してきたみたい。」
「そ、そうアルカ。大変アルナ。」

ふふふ、と笑ってゴリラの方を見ている姉御の顔は何というか…恐い。
というかこの塾大丈夫か、こんなことやってたら建物崩壊するんじゃね?

グルグルと考えを巡らせていると、背後から声がかかった。
「おい、近藤さんに何してんだ。」
「こりゃまた派手にやりやしたねィ」
振り返ると目付きの悪い男と顔立ちの整った茶髪の男が立っていた。
「あら、ゴリラが脱走だなんて危ないですよ、ちゃんと見張ってなきゃ飼育員さん。」

その姉御の言葉にハァ、と溜息をつくと、目付きの悪い男は倒れているゴリラの近くに行き、叩き起こした。

起きたは良いが顔がボロボロだ。
ご愁傷さま、と心の中で手を合わしていると声を掛けられた。
「あんた新入りですかィ」
「そうアル。体験入学しに来た神楽アル」
「神楽、ねィ…俺は沖田総悟でさァ」
沖田総悟…頭の中で言われた名前を繰り返していると、倒れていた男と目付きの悪い男も自己紹介してきた。

「俺は土方十四郎だ。チャイナ娘、よろしく頼むぜ」
「よろしくアルトッシー。でも神楽って言ってんのに何でチャイナ娘アルカ。」
アルアル言ってるからだ、と答えになっていない答えを返される。何でトッシーなんだとも言われたがそれは無視した。
「俺は近藤だ!よろしくな、チャイナさん!」
もうチャイナにはツッコまないことにする。
「よろしくアル、ゴリ」
「え、ゴリって何?近藤って言ったよね?」
「ゴリラの略だろ」
「いや分かってるけど!何でゴリラ?何でゴリ?」
「近藤さんがゴリラだからでさァ、きっと」
「ねえ泣いていい?」

やっている事はすごくくだらないけど、楽しくて面白い。
…ここでなら、楽しめる気がする。

「皆優しい人達ばかりなのよ、ここは。」
だから安心して。
友達なんてきっとすぐできる、と姉御は私に言う。
「それに勉強が不安なら沖田さんに聞くといいわ。この人、ここで一番成績がいいから。」
「そうアルカ?全然見えないネ」
「よくいわれまさァ」
その後も5人で色々と話したが、先生が来たので席に戻って行った。

「せんせぇー、私どこに座れば良いアルカ?」
「え?あーっと、じゃあ総一朗君の隣ね。」
「旦那、総一朗じゃなくて総悟でさァ」

きっと先生は前に姉御がいるから気を使ってくれたのだろう。
隣に沖田もいるし。

気を使ってくれたのは嬉しい。嬉しいのだけれど。

(さっきっからすっごく見られてるネ。)
『沖田の隣』に座ったことへの嫉妬、羨望。
少し優越感はあるけど。
(これじゃマトモに授業受けられないネ!)

沖田は剣道部のエースらしい。
それに加えて顔も良くて頭もいいのなら、モテるなという方が無理な話だ。

なぜだかモヤモヤする心に首をかしげながら、隣の沖田を見ると、バッチリ目が合ってしまった。




(ヤバイアル)
そう思って咄嗟に目を逸らそうとしたけど、逸らせなかった。

目が合った時、沖田がふっと笑ったから。

恋に落ちる音がした。
バクバクと心臓がなっている。
沖田はもう前を向いているのに。
顔が赤いのを隠すのに必死で、授業なんてマトモに受けられなかった。

帰宅後パピーに塾をどうするかと聞かれ、(半分以上沖田目当てで)入ると即答した。

その後私は沖田の本性を知ることになるのだが、それはまた別の話、というやつだ。

今日だけ猫かぶり
でも好きだから。

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