夕刻の空

綺麗だと思った。ただ黙って見つめていた。


珍しく真面目に巡回でもしようかと思った日の空は、特別綺麗なわけではなかった。
水の中に筆で絵の具を零したような、濁った水色。そんな曇りなのか晴れなのか分からないようなそんな空。
もしかしたら雨が降るかもしれねぇな、失敗したと思いながらも屯所へとは向かわず、そのまま当初の予定通りの巡回ルートを歩いていた。

巡回ルートを一通り回ったが特に事件は起きなかった。面白くない、これならサボってても良かったじゃねぇかなどと警官とは思えない言葉を心の中で呟く。

だから、別に何かを思って見たわけじゃなかった。何となく、空を見上げ、そしてめを見張った。

濁ったような水色の空に、薄いオレンジの雲がある。そんな柔らかい雰囲気がただでさえ美しいのに。
その奥にある、夕日に照らされたオレンジ色の雲がとても綺麗だった。
美しい景色に時間も忘れ、見入っていた。

なぜ今まで気づかなかったのだろうか。
こんな美しい景色に。

オレンジ色の雲が、あの憎たらしい笑顔の娘の髪のようだった。
この景色を綺麗だと思えるのなら、自分は人斬りに成り下がっていないのだと、そう思った。

今日だけは土方コノヤローへの呪いをやめてやろう。
明日は公園に行って、あいつに会ったらいつも通り喧嘩して、その後はこんな夕日を見ようじゃないか。

鼻歌を歌いながら、屯所へと歩みを進めた。

夕刻の空
(いつもと違う日)




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