008
誰にでもあると思う。
記憶の片隅にある、出身不詳の謎の記憶の断片。
いくら考えても、いくら思い出そうとしても、決して核心には触れる事がない、曖昧かつ不確かなそれら。
あたしの場合。
金属音。
差し伸べられた血まみれの手。
柄にも無く優しい笑顔に、優しい言葉。
「必ず、見つけ出してテメェの死に顔拝んでやらァ」
…………あれ?優しい言葉か?
メモリー
「…なんだ、今の夢…」
珍しくチャイムの音で目が覚めれば、若干メイクが落ちるのも構わず無意識に目を擦る。
初めて見たかのような感覚と、長らく忘れ去られていたかのような感覚とが絶妙に交差して、いたく不思議な感覚となる。
「よォ、お目覚めか?」
声を掛けられそちらを見れば、ニヒルな笑みを浮かべたどことなくイヤらしい表情の男子生徒。
「…誰アンタ」
「…お前ェにさっき思い切り蹴飛ばされたんだが」
そう言われようやく先程の記憶がフラッシュバックする。
「…ンな事よりお前よォ…相変わらずだな、まぁ俺も」
「え、待って。さっき蹴飛ばしたのってこんな変態みたいな人だっけ?」
…フラッシュバックしきっていなかったらしい。
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