※日本人主




ミスタが帰宅するとナマエがキッチンで歌を口ずさんでいた。ご機嫌な恋人が歌う言葉はどうやら日本語のようだったが、そのメロディーには覚えがあった。

「ララララララ ララ♪ニャーオ」

猫の鳴き声を真似するナマエの可愛さに思わずミスタの口許が緩む。

「可愛い猫がいたもんだなァ」

「わ!ビックリした……!やだ、もう聞いてたの?」

「それ『Volevo un gatto nero』だろ?日本語でもあるんだな」

「ん?この歌知ってるの?」

「知ってるっていうかガキの頃よく聞いてたぜ。音楽祭に入賞した曲っつったっけな?」

「へー!元はイタリアの曲だったんだね!日本でもカバーされてて、私もやっぱり子供の頃聞いてたし歌ったりしたよ。でも原曲のタイトルが『黒い猫が欲しかった』ってことは歌詞も違うんだろうね」

「ワニをダチにあげたガキが、その代わりに自分は黒ネコが欲しいと言ったのに、そのダチがくれたのは白ネコだったからもうお前とは遊ばねぇっつー歌詞だったな。そっちは?」

「日本では『黒猫のタンゴ』っていうタイトルなんだよ」

ナマエが歌詞をイタリア語に訳して教えると、ミスタはへぇと頷いた。

「日本人にしては随分と色っぽい歌詞だな。俺はそっちの方が好きだぜ」

「色っぽい?」

「あ?だってよ恋人のことを歌ってんだろ?」

ミスタに指摘されて、ナマエが歌詞を反芻する。確かに猫のように気まぐれで美人な恋人に振り回される男の心情のようにも読み取れる。

「さすが恋多き男は発想が違うねぇ」

ナマエが揶揄するように笑ってポットに手を伸ばすと、その手をミスタに掴まれる。

「それは違うぜナマエ。全然的外れだ」

「何が?」

「俺はよ、お前に振り回されてばっかだかんな。この歌を歌う男の気持ちが解るんだぜ」

「……振り回すなんて人聞きの悪い」

「真実だろ?赤いリボンもよく似合ってるしな」

ミスタが手を引いてナマエを抱き締める。
今日着ているワンピースのバックデザインに赤いリボンがついているのをミスタがしゅるりと解いた。

「ちょっと、ん、」

ナマエの抗議の言葉はミスタのキスに封じられる。口から耳、首へとキスが移ったところで、ナマエがミスタの手の甲に爪を立てる。

「イタズラするとおあずけだよ」

「miao(ミャーオ)」

猫の鳴き声を真似するミスタにナマエは笑ってしまう。

「もう!」

「つれねぇこと言うなよ、欲しいのは黒い猫なんだ。今、欲しいんだよ。ガッティーナ」

ナマエの腰を引き寄せてミスタが囁く。
お茶を淹れるためのお湯はまた温め直そう。そう思ったナマエは返事の代わりにミスタの口に軽くキスした。

「ニャーオ」


恋人は黒いネコ

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