休日の昼下がり。
フーゴの部屋にはナマエが来ていて、ソファに座りながら本を読んでいる。
その隣でフーゴは二人分の紅茶を淹れひとつをナマエの前に置き、自分も紅茶を飲みながら本を読む。
恋人であっても思い思いに好きなことをしながら過ごすこの時間がフーゴにとってもナマエにとっても心地好いものだった。
ぺらり、とページを捲る音とともにふとナマエがフーゴの名前を呼んだ。
「ねーフーゴ」
「なんですか?」
「フーゴって性欲強いの?」
「ッゴホッ!?な、ハァッ!?何を聞いてるんですか!?」
ナマエの突然の質問にフーゴは飲んでいた紅茶に噎せてしまう。
真っ赤な顔で怒るフーゴに対してナマエは悪びれもしない。
「だってここに書いてあるから」
ナマエは読んでいた本を開いたままフーゴに見せた。
フーゴが本を受け取り読んでみると、IQが高い人は報酬系の神経が発達しているため性欲が強いと言われています、と書かれている。
「どうなの?」
ナマエが頬杖をつきながら聞く。
本から目を上げてナマエをちらりと見たフーゴは溜め息をついた。
「あなたが一番知っているじゃあないですか」
「私?」
「ベッドで僕があなたに無理させたことあります?」
「なっ……!?」
今度はフーゴの質問にナマエが顔を赤くする。
「そもそもナマエ、ここに書いてある報酬系の神経ってなんだか知ってるんですか?」
「知らないよ!」
ナマエはプイッと顔を背けてすっかり冷めてしまった紅茶をぐいっと飲んだ。
「簡単に言うと誘因行動を引きおこす刺激のことです」
「……誘因行動?」
「引き寄せられる、それに近づきたいと思うことです。例えば美人の整った顔は報酬となるけど、好みは人それぞれですよね?」
「うん」
「つまり報酬であるか否かは、脳の状態に依存して、主観的な快体験を起こすかどうかということで決まるってことです」
「……何が言いたいの?」
「僕に幸福感を与えるのは君だけだってことです。ナマエ」
カップを持っていたナマエの手にフーゴの手が重なる。
触れあった場所からじんわりと伝わる熱に引き寄せられる感覚がナマエに広がった。
「……フーゴは私といると嬉しいってこと?」
「勿論。……ナマエは?違うんですか?」
「……私もフーゴといると幸せだよ」
ナマエの返事にフーゴは重ねていた手を取ってちゅ、と口づける。
そのままフーゴがナマエの手に頬擦りすると、途端にナマエが静かになった。
見ればナマエは真っ赤な顔で口をぱくぱくさせていて、フーゴは思わずくすりと笑う。
「そんな顔しても僕には報酬にしかならないって今言ったばかりじゃあないですか」
「だ、だって……!!」
「だって?言い訳は後にして。さ、行きましょう」
「何処に?」
「ベッド」
優しい顔をしてナマエの手を引くフーゴの力は強い。
「えっ!?は!?べ、ベッド!?行くにしてももうちょっとムードを大事に……」
「何言ってるんですか。僕が本当にそうなのか知りたいって言ったのナマエですし顔を真っ赤にするほど甘い雰囲気だったでしょう。……それとも嫌ですか?シたくない?」
「……狡い」
もう二度とフーゴをからかうようなことはやめようとナマエは心に決めた。
寝室のドアがパタリと閉まる。
本に書いてあったことが真実かどうか、それは二人だけの秘密だ。
C8H11NO2