アラームが鳴る前に目が醒める。
カーテンから洩れる光から朝になっていることに気付いたナマエはサイドテーブルに置いてあるスマホに手を伸ばした。
6時15分。
まだ少し早いが二度寝するには微妙な時間にスマホを戻すと、カタリと眼鏡に当たる。
隣でまだ寝息を立てているギアッチョの赤い眼鏡だ。
ナマエが眼鏡を取ってレンズを確認すると、傷をつけてはいないようでほっとする。
眼鏡を戻そうとしたナマエはふと何かを思いついたように、うつ伏せになり胸の間に枕を挟んで腕をつく体勢になった。
ゆっくりと眼鏡のテンプルを開いて、掛けてみる。
赤いリムに縁取られたウェリントンフレームの視界がぼやけた。
存外度が強い。
ナマエは先程置いたスマホを取ってブラックアウトしている画面に映った自分の顔を見る。

「……なにしてんだ、おまえ」

隣から掠れた声がしてナマエはびくりと跳ね上がって驚くと、ぼんやりと目を開けたギアッチョがこちらを見ていた。

「あ、や……ごめ、」

ナマエが慌てて眼鏡を外そうとすると、ギアッチョが手を伸ばして眼鏡のフレームをなぞる。

「何してんだって聞いてんだよ」

フレームをなぞっていたギアッチョの指がナマエの頬から口唇へと移っていく。
ナマエが擽ったさに身を捩れば、逃がさないとばかりにギアッチョに腰を捕らえられる。
視線を合わせば、裸眼のギアッチョの鋭い眼差しにナマエは観念するしかない。

「これ掛けたらギアッチョと同じものが見えるかなって思ったの」

「……んだよ、それ……」

ギアッチョはチッと盛大な舌打ちをする。
もぞもぞと動く気配と物音に目を覚まして見たら、ナマエが自分の眼鏡を掛けていて。
触ったら、擽ったそうにぴくりと反応して。
理由を問い詰めたら、可愛い理由が返ってきて。
あまりの可愛さと愛しさに舌打ちのひとつも出るだろ、とギアッチョは心の中で悪態をついて唸る。

「勝手に触ってごめんね」

「あァ?……別に構わねぇがよ、必要ねぇヤツが着けるもんじゃねぇ。目ェ悪くすっぞ」

自分と同じものを見たいとナマエは言ったが、ギアッチョ自身はナマエには見てほしくないと思った。
血や死体やそういうものとは無縁のところでナマエには生きていて欲しい。
そう願いながらもギアッチョはナマエから離れることは出来ないのだが。

「……外すぞ」

「ん、」

ギアッチョがナマエから眼鏡を外そうとすると、ナマエが目を閉じた。
それを見たギアッチョはまたしても唸るように溜め息をつく。
先程から燻っていた欲を理性から切り離したギアッチョがナマエにキスをする。
眼鏡を外す一瞬の触れ合うだけの短いキスは軽いリップ音を残した。

「さっきっからよォ、煽ってんのかよ……」

至近距離で見つめられてナマエはぼっと一気に顔を赤くする。

「そういうのを言ってんだっつーの!こんくらい近ェと眼鏡なくてもよォ、よく見えるぜ。ナマエも俺だけ見てろ」

そう言ったギアッチョがナマエに今度は深くキスしてくる。
いつの間にか押し倒されるような体勢になっていた。
互いの舌を絡ませて、歯列をなぞり、口蓋を舌先で舐められる。
少しだけ離された隙にナマエは酸素を求めて息を吐くが、シャツの裾からひやりとした手の感触に声を震わせた。
ギアッチョを見上げれば、コバルトブルーの目に欲の火が灯っている。
ナマエはギアッチョの首に腕を回し引き寄せてキスをした。

「……アラームが鳴るまでには終わりにしてね」

「そう来なくてはな、ナマエ」


眼鏡をかけて

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