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「…どうしたの」
「泣くのをやめてくれ」
「もう泣いてない…どうしたの」
「…どうも…しないが」
言葉に詰まる姿など、記憶に残っている限り人に見せた事はなかった。リツカはついに上体を起こして私を見据えた。
「愛ではないけれど、身体が欲しいって事なの」
信じられない。
「違う。本気でそんな事を、私が思うと思っているのか?」
「じゃあ何」
ただ、泣き止んで欲しかっただけなのだが、何故か怒らせてしまっている。どう説明するべきなのか、悩みあぐねた。
「キスをすれば寝るのか」
「…?…うん」
私はリツカの耳の下あたりに手をかけてリツカの頭を引き寄せ、前髪のかかるリツカの額にキスをした。リツカはそれでは不満を言うかと思ったが、何も言わなかった。不思議そうな顔で私を見上げていた。
「私はこれからも、一生何が有ろうともリツカの身体を求めはしない。しかしそれだけが人の好意では無いと、知るべきだ」
「…それは、私が好きって事なの」
「寝るんだろう、横になるんだ」
私がそう言ってリツカの質問をかわすと、リツカは微笑んだ。
ああ、これは…確かに美しい。
今まで私という物を自分で縛り過ぎていた。その固定概念を振り払えず、自分の想いに全て気付かなかった。美しい人間は、確かにある。世界で唯一ここにだけ。
リツカは再び横になって、シーツを手繰り寄せた。今度こそ寝る気になったようだ。
私は立ち上がり、ソファーに戻ろうとした。しかし、リツカに手を掴まれてそれがかなわなかった。
「ここに居て。私が好きなんでしょう」
呆れたが私はベッドの端に座り、リツカが眠ってしまってもそこにいた。リツカは私の手を握ったままで、眠った。
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▽ Dog-ear ??
SCHNEEWITTCHEN