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私はついにリツカから視線を反らした。私がそこにいるリツカを無視して本を開き、読み始めると、リツカも諦めた様に足をベッドに向けて行って私の視界から見えなくなった。
リツカがもう私を見ていないと確信が持てた時点で、私は視線を再び上げてため息を吐いた。
呆れる。先生に聞いた話ではリツカはまだ18だ。30代の男を、ああも容易く誘惑するなど、何と安易な事をする少女なのだろう。私だったから良いが、他の男だったらこうは行かなかっただろう。
しかし私だからリツカはこうしたのだろうと思えば、他の男をわざわざ誘う事はしないだろう。それならば、あまり問題はない。
私はもう一度本に目を落とし、ページをめくった。とたんに水を打ったように静かだった部屋に、小さく息を飲む声が聞こえた。
瞬時に私は銃を持ち、装填しながらリツカに駆け寄った。周りを見渡し、リツカを襲おうと狙う者がどこにいるのかと構えた。
しかし、何もおらず、リツカが出している息を吸い込む音以外に何も聞こえなかった。
ベッドの横に立つと、リツカがシーツだけを身体に巻いて横になっていた。リツカは顔を上げず、視線だけを私に向けた。泣いている。不規則な息の正体は、泣き声だった。

「どうした」
「…別に、何でもない」

リツカは視線を外して不機嫌に寝返りを打って、私に背中を向けた。顔は見えなくなったが、泣いているのは後ろ姿からも見てとれた。
私は、何故かソファーに戻れなかった。その姿を見て、何事も無かったかのようになれなかったのだ。
私はその私自身を疑問に思った。これが先生の指示した事のせいだと、言えるだろうか?
リツカに甘くなる事は先生の指示通りにした結果だったはずだが、私が涙を溢すリツカに対して、同じ様に悲しみを覚える事までもが、先生の指示が原因と言えるだろうか。
そんな“私”は、今まで居たことが無かった。存在しえなかった。リツカの質問に対する私の先程の答えは、虚偽だった。何も違いが無かったはずの人間達に、違いがあった。あるのだ、私はそれを認めていなかっただけだ。


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Dog-ear ??
SCHNEEWITTCHEN






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