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最初がどんな事だったかは覚えていない。何故、今の自分がこう在るのかは覚えている。ただ、口を閉ざすのは恐ろしいからではない。それは呼吸と同じで、理由などはないのだ。あるのはただ、“私”だけだ。
“私”にあるはずのない“私”に気付けないなど、人生で一度も無かった。今までは。


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最近のリツカは、私達から隠れるのが楽しみだった。そうやって私達が探す様を、楽しんで見ている。広いこの家では、見付けるのも苦労した。

「リツカ」

一週間程前に、リツカの希望により、先生の酒類の保管とピアノスタジオとして使っていた地下室を、バーに改装した。
リツカは「ここに住んでもいい」と言う程に気に入り、入り浸っていた。今日も隠れ場所はそこだった。次からは最初にここから探す方が良さそうだ。

「…見つかった」
「一人で行動するな」

何度言っても聞かないが、先生がそうするように言うならば、何度でも注意するつもりだった。暗い色のマホガニーで統一して造られたバーカウンターにリツカは座り、何かを飲んでいた。

「昼の12時から酒か」
「違う、ただのジンジャーエール。バーは気に入ったけど、バーテンダーが居ないから適当な味しか出来ない」

美味しいのを飲みたい、と言ってリツカは誰かの名前を言った。リツカの家にいた副料理長がバーテンダーの資格を持ち、よく作ってくれていたらしい。全くなんという大人だろうか。まだ年端もいかない少女に酒を作るとは。

「昼食が出来ている。私は今から部屋に戻る、リビングに他の人間がいるからそっちに移動するんだ」
「じゃあレヴィに付いてく、いるのってサタンでしょう」
「…」

邪魔だ。
しかし言っても無駄だろう。無理やりに言う事は出来ない。力を尽さずともリツカを諦めさせる程に傷付ける事は容易いが、先生はリツカを護るようにと言う。ならば自ら傷付けるなど、あってならない。私がリツカに甘くなってしまっていたのは、そういう理由があるからだ。


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Dog-ear ??
SCHNEEWITTCHEN






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