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声にはいつものふざけた雰囲気が含まれておらず、真剣だったので響はどうしようと頭の中はパニックだった。
「俺、ナリちゃんがヤスと結婚するの嫌なんだ…会って二日目で何言ってるんだって自分でも思うけど、早くしないと手遅れになるって焦って。
俺カッコつけてるけど好きな物が目の前で取られるの平気で見てられるほどクールじゃねーんだ、だから…」
「…」
響は何も言えなかった。
恋と一緒にいるのは本当に楽しくて、愛と恋が逆だったらと心底思っていた。
だけどこの婚約は簡単に無かった事に出来るほど単純では無かった。
親の顔立てもあるし、灰宮社にとっても有益になるはずの大切な商談だし、何より響にとっては本城の名前から抜け出し自分の夢に近付く為の婚約だった。
「私はこの話が破談になると、困るの」
「それ、俺は嫌だって意味で言ってるの?」
「…」
嫌だなんて思っていなかった、むしろ嬉しかった。
それでも響はこの婚約にかかっている物を思うと何も返せず、うつむいた。
何も言わない響を見て、恋は響の手を離した。
「ごめん、じゃあね」
恋はポケットに手を突っ込んで、響とは反対に歩いて行った。
追いかけたがる足を戒めて、響も踵を反し、タクシー乗り場に歩いた。
タクシーに乗ると悶々としてしまい、冷たい窓ガラスに額を預けた。
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CINDERELLA STORY