連行された先は、薄汚い牢屋。
 乱暴に入れられ、リーシェは思わず顔面から倒れた。
 間抜けな格好に、騎士たちは鼻で笑うと「処罰が決まるまで大人しくしていろ」と言い残しその場から去る。
(……)
 リーシェはのっそりと起き上がると、埃だらけの寝台に腰を下ろした。
「はぁ……」
 何でこんなことになったのだろう。
 ミトラと別れて、嫌味なお嬢様たちと言い争いになって、迷い込んだ先で変な男にファーストキスを奪われた。それから垂れ込みがあったとかで共犯者だと疑われて、今リーシェはここにいる。
「あたしがなにしたっていうの」
 ワインをかけたことは悪いなんて思っていない。あれは向こうが悪いのだ。
 日頃の生活態度も悪くはない……はず。
 嫌なこと続きでネガティブ思考になってしまいそうだ。
(でも、待って……?)
 大事なことを忘れているような気がする。
「そういえばあの人、変なチョーカー持ってた」
 リーシェの唇を奪った男を初めて目にしたとき、男の手には翡翠色のチョーカーが握られていた。
 もしかしてあれが、
「“秘宝”なの……?」
 リーシェは息を呑むと、右手を顎に当てた。
 だとしたら、知らなかったとはいえリーシェが犯人を見逃してしまったのかもしれない。
 あのとき、もう少し早く大声を上げていたら、状況は違っていたはずだ。
 そうしたら共犯者として疑われなかったかもしれない。
「……シェ。リー……」
 云々と唸っていると、消え入りそうな声でリーシェの名を呼ぶ声が聞こえた。
 この声には聞き覚えがある。
「マリアンヌ様!!」
「しーっ!! バレちゃうです」
 分厚い扉の鉄格子をはめられた場所から見える顔。庭園で会ったマリアンヌだった。
 思わず声を張り上げてしまったリーシェは、「しまった」とでも言うようにすぐに両手で口を塞ぐ。
「あの、どうしてここに?」
 今度は声の大きさに気をつけながら、恐る恐る聞いてみる。
 すると、マリアンヌは誰も周りにいないか確認してから口を開く。
「ミトラから頼まれたのです。あなたの無実を証明する手伝いをして欲しいと」
 「これを」と口にして、鉄格子の間から小さく折り畳まれた紙をリーシェに渡す。
「表立って私は動くことは出来ないです。でも、ここから出る方法の助言は出来るです。方法はその紙に書いておいたので、見つからないように読んでみてください。それから、一つだけ先に行っておくです」
 口早に告げると、マリアンヌの力強い瞳がリーシェを射抜く。
 目が合うとにっこりとマリアンヌは微笑んだ。
「私の父は、面白いことが何よりも大好きなのです。それを利用すればきっとうまくいくです」
「面白い、こと?」
「はい! でもとりあえず今は、そこから出ることだけを考えるのです。いいですね?」
「う、うん」
 渡された紙とマリアンヌを交互に見つめて、リーシェは頷いた。
 このままここに一人で居てもきっと何も出来ない。
 なら、一か八かでも賭けるしかない。
「私が作れるチャンスは一度だけ。それを逃さないでください」
 コツコツと見回りの獄卒の足音が聞こえてくると、マリアンヌは「がんばってです」と小声で言い残して帰っていった。
(ありがとう……。頑張ってみるわ)

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