「皇帝陛下。怪しい女を捕らえました!」
両手首をきつく縄で縛られ、前後には騎士。
くねくねと廊下を曲がり、辿り着いた先は玉座の間だった。
巨大な扉が開き、中へと入る。
(あっ――)
会場に居たはずの皇帝が、奥にある玉座に座っていた。
鋭い視線がリーシェを貫く。
一瞬、息が止まった。
目が離せない。
これが、“冷帝”と恐れられた皇帝の真実の姿なのか。
「さっさと歩け」
固まって動かなくなったリーシェの背中を押し、進むように騎士が命令する。
急に押されたことでバランスを崩したリーシェは、そのまま転んでしまう。
無様な姿に騎士たちは鼻で笑った。
乱暴にリーシェの二の腕を掴むと、無理やり立たせ引きずる様に部屋の中心へと連れて行った。
「名は」
皇帝が問う。
「り、リーシェです」
うまく口が回らず、震える声で答えた。
冷たい目。
(怖い――――)
「先程、我が国の秘宝が盗まれた、と報告があった……。その犯人は、お前か?」
続けて問う。
リーシェは答えず、首を横に何度も振った。
それを見て、皇帝は目を細めると再び口を開く。
「お前が『共犯者』だという、垂れ込みがあったが……? それでも、言い逃れをするか」
「ち、ちがっ」
「事実はどうあれ、お前は会場にいなかった。お前がいた場所は、立ち入り禁止区域。一招待客が行ける場所では、ない」
連れて行け、皇帝が騎士に命ずる。
「はっ」騎士が同時に敬礼すると、再びリーシェの二の腕を掴み連行した。
玉座の間には皇帝だけが残された。
足を組み、くくくと笑みをこぼす。
「楽しそうですね」
いつの間に入ったのか、巨大な扉を背に寄りかかる中年の男が口を開いた。
金色の髪、碧眼の瞳。整えられているが、中途半端に手を抜いているせいでところどころに癖が残っている髪型。
皇帝の古い知人だった。
「ああ、楽しいとも」
「人の娘を犯人扱いしておいて、酷い人ですよ。あなたは」
「私は暇なのだよ。おもしろい余興だろう?」
男は扉から離れると、玉座に向かって歩いていく。
「まあ、そんなことはどうでも良い事。それで、あなたに垂れ込みをしたのは、どこの家の者ですか?」
「……知ってどうする」
「私の性格をよく知っているはずだ。なにをするか、わかるでしょう?」
玉座の前にある階段を上がり、皇帝の横に立つ。
皇帝は「ああ、知っているさ」と口にして、紙の切れ端を男に渡した。
「余興の邪魔はするなよ。私はお前の性格をよく知っている。お前も私の性格はよく知っているはずだ。邪魔をすればどうなるか、わかっているな?」
「ええ、邪魔はしませんよ。もちろんです」
男の返答に満足した皇帝は、背もたれに体重をかけ目を瞑る。
「ならよい。好きに動け」