****は、短剣を手にとるローのしなやかな指をじっと見つめていた。きれいな指だなあ、なんて思っていれば、ちらりと彼の視線が突き刺さり、小首を傾げる。

「そんなに気に入ったのか。」
「え?」
「こいつ、見てただろ。」

ずいと差し出されたそれは、紛れもなく武器。普段の戦いでも剣なんか使わない少女はきょとんとした表情のまま、翡翠の瞳を大きく瞬きさせた。

「やあだ、違うよ。」
「違うのか?」
「うん。」

ゆったりと頷く****に、ローは訝しげな顔をする。そうして一歩歩くと今度は違う短剣に目を留めた。鞘から抜いて重量感や質感を確かめている。そもそも、なんで武器屋を物色しているのか、****は不思議だった。船には十分武器はあるようだし、ローには愛刀がある。今更短剣など、なにに使う気なのか解せなかった。

「ねえロー、どうして短剣を見てるの?刀はやめちゃうの?」
「やめねえよ、つーか俺のじゃねえ。」

ローは、もってみろ、と無理矢理今見ていた短剣を****に押しつける。彼女の髪の色と同じ、桜色に月の絵が刻まれた鞘からゆっくりと剣を抜いた****は、もしかしてあたしのなの?と尋ねた。

「護身用だ。投げナイフくらいもっててもらわねえと気が気じゃねえ。」
「…あたし、ナイフなんか投げたことないよ?」
「練習すればいいだろ。ああ、近くにユースタス屋の船が止まってたな…帰りに練習してくか。」

にやにや笑いそう言うローだったが、****の頭には怒り狂うキッドの姿が浮かび、ぶるぶるっと体をふるわせる。仲がいいんだか悪いんだか、きっとローとキッドのような関係を、ペンギンが教えてくれた、腐れ縁というのだろうとは思う。

「でも、軽いしこれならあたしにも使えそう。」
「だろうな。よし、ここで待ってろ。」

動くなよ、と念押しをしてから、ローは****から短剣をとりあげて支払い所へと歩いていく。その背中を食い入るように見つめていると、後ろから肩をたたかれる。

「キッド!」
「よぉ、おまえらも来てたのか。」

おまえがいるってことはトラファルガーの野郎もいるんだろと少しイヤそうに、赤髪の男が笑った。****はくすくすと笑い、ローの背を指さす。

「ローが、護身用に短剣を買ってくれたの。キッドの船を練習台にするって言ってるよ。」
「は?なんだそれ。」
「投げナイフにするの。だから、キッドの船は的。」
「…トラファルガーの野郎…」

案の定、顔をひくつかせて体中から怒りを放つキッドに****は思わず吹き出した。笑うなよ****と頭をこずかれたとき、丁度ローが戻ってくる。

「ユースタス屋…****にさわるんじゃねえ。」
「うるせえ、エロファルガーが。そんなに大事なら一瞬でも目を離すんじゃねえよ。あとうちの船で投げナイフの練習なんざしたらてめえの船を沈めるからな。」
「あいにく俺の船はてめえに沈められるほど柔な作りはしていない。残念だったな。」
「もぉー、やめてよ二人とも。ローも、終わったならもう行こう。おなかすいたよ。」

ばちばちと火花を散らして今にも互いに力をぶつけあいそうな二人の間に割ってはいると、****は頬を膨らませてローの胸板を押した。ちっと舌打ちをして****の小さな手をとると、ローは「命拾いしたなユースタス屋。」と愉快そうに店を出ていった。

「ありがとうロー、大事にするね。」
「…おい、わかってるだろうが、念のため言っておく。それは、大事にするために買ってやったわけじゃねえ。おまえの身を守るために買ったんだ。鞘にいれたまま部屋に飾ってでもおいたら足腰立たなくするからな。」
「わ、わかってるよぉ、変なこと言わないで///」

頬をさっと紅くして膨れる****に目を細めて優しげに笑い頭を軽く撫でてやる。可愛くてしかたない、ローにとっての宝物だ。

「ねえ、なに食べる??」
「好きなもんでいいが………テイクアウトにしろよ。」
「え?」

もう帰るのと言いたげな****の腰を引き寄せて、ちゅっと軽いリップ音をたて口づけたローはニヤリと笑っている。こんな公衆の面前でキスをされるだなど思っていなかった****は真っ赤になって目を見開いた。

「ロ、ロー!!///」
「朝からあれだけ執拗に熱い視線おくられてれば、我慢できなくなるに決まってるだろ。」
「!!!」
「残念だったな****。」

楽しそうなローに、観念して困ったように笑えば今度は「で、なんであんなに見てた。」と問われたので、****はくすっと笑い、「ローにはわからない理由。」と、さっさと歩き出してしまった。彼のことだ。きっとわかってるのに言わせようとしているだけ。

そんな見え透いた作戦に引っかかってはあげない。



あなたにだけ、視線が奪われる理由なんて言うまでもないでしょう


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