ご飯の支度を手伝っていると、テーブルに置いておいた携帯が派手にが鳴った。この着信音は紛れもなく隣に住む幼なじみから。飛びつくように携帯を開きメールを開くと、彼らしいシンプルなメッセージが。


from ロー
腹減ったから今から行く。


珍しくローからメールが来たと思えばこれだ。私は大きくため息をついて、丁度盛りつけに取りかかっているママに声をかける。

「ママ、ロー来るって〜。」
「あら♪よかったじゃない、パパ出張だから楽しくなるわね。」
「よくないわよ、週に四回も食べにきてるんだから食費ほしいくらいじゃないの。」

ぷりぷりと頬を膨らませながら呆れつつも、内心は嬉しくてたまらない。小さい頃からローが好きだけどあまりにも近くに居すぎて今更気持ちを伝えるのが怖い私は、こうしてローと逢えるだけで幸せだった。ふつう高校生にもなれば幼なじみなんて疎遠になってもおかしくないけれど、不思議とローは私との距離を置いたりせず、かと言って優しくするわけでもなく、昔から変わらない態度で接してくれていたのでそのたびに安心している。

程なくして家の扉があく音がしたので玄関のほうを見に行くと、相変わらず目の下に隈をつくったローがよぉと上がり込んできた。

「あのねロー?何度も言ってるんだけど、インターホンくらい鳴らさないわけ?」
「ここは俺の縄張りだ。」
「獣みたいなこと言わないでよ。」

この男のせいで毎日十回はため息をついている気はするが、食卓テーブルに案内しとりあえず座らせた。ちわ、と挨拶するローに、ハンバーグを出すママはいらっしゃいとほほえむ。ママは昔からローがお気に入り。ほんとは男の子もほしかったみたいなんだけど、流産しちゃって結局諦めたらしい。だから代わりに、ローを実の息子のように可愛がっていた。

「たくさん作ったから、いっぱい食べていってね♪」
「いつもすんません。」
「ほんとだよ…」

ぼそっと呟くと、一瞬ぎろりと睨まれる。こ、怖くないからね…。

「ローくんが来ると食卓がにぎやかになるからいつも楽しみにしてるのよ〜。」
「ほんと、ママはローに甘いんだから!まったく、少しくらいうちに食費いれてよね、バカロー。うちの食費は大半ローが占めてるんだから。」
「あ?いつもテスト前に勉強教えてやってんのは誰だと思ってんだ。」
「そうよねぇ、助かってるわ、ローくんのおかげで****ったらいつも点数よくて♪」
「そ、それとこれとは別だもん!」

あーおいしい!と、がつがつハンバーグを口にかっこんでいれば、ママが、そういえば、と嬉しそうにローの方を向いた。

「来週お祭りだけど、ローくんは行くの?」
「あー…そういえばクラスの奴らがそんな話してたな。誘われたけど断った。」

興味ない。

そう言ってまた箸をすすめるローに私は胸をなで下ろした。どうやら特に決まったお相手はいないらしい。誘われたというのは気になるけれど、この感じなら絶対に行かないとみた。それはそれで複雑だけど…。だってきっと私が誘っても結果は同じだもん。

「おまえは?」
「え?」
「祭。行くのか?」
「え、ううん…ナミはルフィとだし、ボニーはキッドと行くみたいだから。」
「ああ…」
「あのー、哀れまないでくれます?」

むかつく顔でこちらを見てくるローに言い返すも、確かに高校最後の祭なんだから行きたいなあとは思ったけど。と付け加えとく。ローから誘ってくれないかなあなんて淡い期待をもってみたけど、すぐにこの話は終わってしまった。

「ごちそーさんでした。」
「またいらっしゃい。」
「もうこなくていいよ。」
「****ってば。」

ママに腕でこづかれながら、食べ終わって家に帰るローを見送る。ほんとにご飯だけなんだから、もう少しゆっくりしていけばいいのに。ふてくされながら部屋にあがり、携帯を開いてみた。お祭りにどうしても行きたいわけじゃない。それでも誘ってみるだけなら頑張れるじゃないか。何度も、新規作成からローの送信先を打ち込む。だけど、何度試しても、文章までしか打てずに最後の一押しができなかった私はやはり臆病なのだろう。


しばらくすると、携帯が鳴った。開いたメールには一言だけ。どうしよう、これ、期待していいのかな?



(浴衣着てこいよ。)




送信ボタンを押す勇気はなかった


prev - next

back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -