3 馬鹿げたイベント


ダンブルドアは何故ギルデロイ・ロックハートを闇の魔術に対する防衛術に任命したのか。理解しかねる、というのは様々な主義主張を持つ教員で唯一一致する意見だった。

当のロックハートとダンブルドアには響いていないが。

2月の今日は馬鹿げたイベントのある日だった。前日から職員室では張り切ったロックハートが騒いでいたが話をまともに聞く気などとうにない。右から左へと聞き流した。不幸なことに肩に手を置かれていようと。

もし聞いていれば今朝大広間へ行こうなどと思うはずがない。朝食を抜いたくらいで倒れる柔な身体ではないし、厨房に行けば、いや行かずとも、私室に朝食を用意させられる。毎日そうしないのはダンブルドアに大広間で摂るのも仕事のうちだと言われているからにすぎない。

だが今日のこの状況なら許されるのでは。

開け放たれた扉からピンクに染まる大広間が見えて、くるりと方向転換をした。


「っ、校長……おはようございます」

「おはよう、スネイプ教授。朝食はお済みかのう?」


横を通り抜ける生徒へ向けるものと同じ笑みで彼は立ちはだかっていた。にこやかな瞳の奥には朝食の席への参加を促す鋭さがある。

なんて間の悪い。




朝の予感通りの1日となった。授業中にも金のキューピッドとやらが忍び込み、やれバレンタインだ、やれ愛の詩だと邪魔をした。おまけにNEWT試験を控えた七年生の大切な授業にまで乗り込んで。

事もあろうに、私へ詩を持ってきたと言う。

思い出しても寒気がする。耳塞ぎの呪文で生徒には聞かせずに済んだがどうせなら自分にもかけるべきだった。小賢しい悪戯か、エバンズの仕業か。悪戯を兼ねた彼女のアプローチと言ったところか。今更匿名で愛を綴ったところでどうする。散々私に直接喚いているというのに。


研究室の事務机に陣取って、生徒に提出させた小瓶を揺らす。ロックハートの邪魔が入ったものの自分の基準を満たした七年生による魔法薬の調合はまずまずの結果だった。順調に行けばNEWT試験には全員が満足のいく結果を出せるだろう。

最後の小瓶を評価し終えると、見計らったように扉が叩かれた。名乗りを兼ねているのだと得意気に話していた妙なノック音は毎日リズムを変えようが訪問者は明らか。わざわざ開けに行く気にもなれず、かといって放っておくのも後々面倒。杖の一振りで扉を開けた。

「お邪魔します」と間延びさせた挨拶で入ってきた予想通りの生徒はここに来るには相応しくない様子。つまりは手ぶらで、彼女お得意の「魔法薬学の質問」や「図書室代わり」といった体を取ることすら放棄した舐められっぷりにため息が出た。彼女が他の生徒と同じなら、ダンブルドアから目付を押し付けられていなければ、二度と敷居を跨がせるものか。


「教師を舐めるその姿勢にグリフィンドール5点減点」

「職権濫用ですよ!」

「それで何の用だ?人を小馬鹿にした歌を送り付けよって、それだけでは飽き足りないか」


何度も来ているというのにキョロキョロと不躾な視線を部屋中に飛ばし歩く彼女に減点を言い渡す。まともに聞く方が馬鹿げている彼女の抗議には無視をした。


「歌?……ロックハートプロデュースの金ぴかキューピッドが来たんですか?!」


エバンズは目玉が溢れ落ちそうなほど見開いて、この世の終わりのように顔色を変える。どうやら彼女ではなかったらしい。それはそれで厄介の種が増えたということになる。だが子供にありがちな勘違いを慎ましく秘めたままホグワーツから去ってくれるなら、目の前の生徒よりはいくらもマシだ。


「君ではなかったのか」

「そんな無駄なことしませんよ!私は常々直接お伝えしているじゃありませんか!っあー!ライバルがいるなんて思いもしなかった!」


うろうろと往復する足を早め大袈裟な動きと共に嘆いて見せる。彼女は何の気なしに言ったのだろうが、なるほど。日頃彼女が私をどう評価しているのかがよく分かった。


「生徒に好かれたいとは思わん。我輩も常々直接お伝えしているが、君を受け入れる気などこれっぽっちもない。だが、今の言葉は侮辱と捉えよう」


途端、慌てふためき出した滑稽な彼女につい口角が上がりそうになり、力を入れる。


「グリフィンドールにいるとどうしても……あ。スリザリンなら……でも成績だとか媚びを売る訳じゃなく純粋に先生のことを好きだって子が私の他にいたとは……」


真剣な面持ちで顎に手を当ててはいるが、相変わらず失礼なことを言っている自覚はないのか。たとえ私自身が同じことを思っていたとしても。


「リリーさんには勝てっこないからいいんです。でも他の生徒には負けたくない!良いですか、どんなに品行方正、容姿端麗の子が来ても、絶対に靡かないでください」


その名を耳にしたのは彼女がここに現れた日以来。そうだった、彼女は私の気持ちを知っている。その上で色々と近付いて来ているのだ。非常にやりにくい。たかがハエを追い払うために咲き誇る百合を振り回すことはしたくない。


「さて、それは約束しかねる」


指された指を払い除け、そう返した。 また彼女は口をあんぐりと開けた間抜け顔を青くする。今限りの子供のお遊びがどれだけ続くか知れないが、もうしばらくは付き合う羽目になるのだろう。この恨みはすべてダンブルドアへぶつけることにする。






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