私の非日常。

(*ちょっとグロ表現注意)





「いやはや、大量大量ー!
やっぱ蓮来てくれると皆まけてくれるね!」

「それが目的か・・・。」

「後は荷物持ち!!」

「・・・。」




ニパッとイイ笑顔でそう言われて、何となく腹が立ったので光希の頬をつねりあげた。
いひゃいいひゃい!と喚いてるがそんなもんは無視だ、無視。

この女、保栖光希は───って、こんな阿呆らしい典型的な他己紹介もシャクだな。
とりあえず、コイツは馬鹿でドジで物好きなお節介焼きだ。
ご近所でもでもないクセに気づいたら私の家にしょっちゅう入り浸って掃除やら家事やらをこなしている。
んで面倒見切ったら自分の家に帰る。そしてまた朝起こしにくる。
よく幼なじみの知世に通い妻、と揶揄されてるが私も同感だ。
まあ私も兄さんも料理は出来ないから助かってはいるけども。




「(・・・にしても・・・)」



「魚屋のおいちゃーん!!蓮ちゃんが虐めるー!!!!」

「ハハハ、どーせまた怒らせる事言ったんだろ?」

「酷い!でも否定出来ない!!」



「(相変わらず世渡り上手なやつ。)」




ガンッ!!とショックを受けている光希とそれを見てケラケラ笑ってる魚屋のご主人を傍目に見て、気づかれないようそっとため息をついた。
光希は私のおかげとかなんとか言ってたが、まけて貰ったりしてくれるのは、結局はアイツの仁徳だろう。
愛嬌がいい。でも媚びへつらう訳でもなし。
たまに下心つか変態心がチラつくが、基本裏表のない快活な人間なのが穂積光希という奴だと私は思う。




「?どしたの蓮ちゃん?笑っちゃって。」

「何でもねぇよ。」

「変なのー。
あ、ねえおいちゃん!今日はどのお魚がお得?」

「そうだな・・・この鯛丸々1匹なんか!」
「高い却下!!!!」
「そんな即答すんなって、冗談に決まってんだろ?!
んじゃあコッチの鰤!旬の盛り、お安くするよ!」

「鰤か・・・
ね、今晩か明日の朝ご飯、鰤の照り焼きにしよっか!」




光希はしゃがんだままくるっと顔を私に向けて笑顔でそう訊ねてきた。
鰤か・・・兄さんも好きだろうし、問題はないだろう。
別にいいんじゃないのか?と、告げようとしてて、時が、止まった。







ぐちゃり、と、嫌な音がする。
───呼吸が、上手く出来ない。




魚屋は何事もないように快活に笑っている。
───胸から10本の指が生えているのに、だ。





指は暫く蠢いた後、その鋭い爪をズブリと深く突き刺して・・・徐々に、強引に、引き裂いた。







引き裂かれたそこからは、血も臓物も溢れなかった。
ただ、その穴の向こうは真っ黒い空間が広がっているようだった。
魚屋は笑みを浮かべたまま動かない。
黒く暗く塗り潰されているその闇の中で、ニタリと笑った誰かと目が合った気がした。








なんだ、これは。
一体、何が・・・なんなんだ!!!!!!






「?蓮ちゃ、うぉああ?!」




訳が分からずフリーズ状態の私が金縛りから解けたのは、光希の間抜けな声からだった。
腹を引き裂いた手はグィッと何かを求めるように目の前に居た人物へと伸びる。
魚屋の正面に座っていた、光希へと。

手加減なんて考える暇もなかった。
脳が反応した瞬間、光希の襟元を鷲掴んで手繰り寄せた。
胸元に引き寄せたと同時に、ターゲットを手に入れられず空振ったその手に対して強烈な蹴りを繰り出す。
バキィッ、と嫌な音がして相手の手が指先からひしゃげる。痛そうだ。知ったことか。

いきなりの攻撃にソイツは怯んでバッと手を引っ込める。
その隙を見て私は光希の手をひっつかんでその場から猛ダッシュで逃げ出した。



チラリと振り返れば魚屋の姿も、あの手の持ち主ももう見えなかった。


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