急転。
どれくらい走ったんだろう。
とっくに商店街は見えなくなっていた。
蓮ちゃんのスピードに合わせているからもう息絶え絶え・・・それにギリギリと手を掴まれてて、痛い。
「っ、蓮ちゃ、速いし痛いっ!」
「っ・・・ゴメン。」
小さく謝った後、蓮ちゃんは減速して、止まった。
胸に手を当てて、ゼェハァと荒れる息を整える。
運動部じゃないから、やっぱキツい。たまには運動しないとなぁ・・・なんて事を酸欠気味の頭でぼんやりと考えていたら、蓮ちゃんがくるりとこちらを向いてしゃがんだ。
「怪我は?」
「な、いよ・・・。
強いて言うなら、掴まれた所が痛いのと走り過ぎて心臓が痛い。
後、蓮ちゃんが麗し過ぎてヤバい。」
「・・・随分元気みたいだな。」
「痛い痛い痛いごめんなさいだから頭グリグリしないで!!」
「つか嘘つくな首元血ィ出てるし。」
「え、マジ気づきませんでしたつか今頭の痛さでそんなの気にならないってば痛あああ!!」
痛い!手加減ない!!
あまりの痛さに涙目なあたしを見て重いため息を1つついた後、手持ちのハンカチで首を押さえられた。若干傷口が擦れてジクリとした痛みが滲む。
「いつの間にこんな傷出来たんだろ。」
「・・・本気で言ってる?それ。」
「ジョーダンデス!!
ちゃんと分かってます!なんか変な手に引っかかれました!」
「正解は引きずり込まれそうになってただけどな。」
「え、何それ恐い。」
というかどこに引きずり込まれそうだったの?!と聞いたら知るかと返された。デスヨネ。
や、蓮ちゃんに抱きしめられた(正確には締め上げられた)時は真っ黒い裂け目と変な方向に曲がった腕しか見えなかった。本当何だあれ?
悶々と考えていると、蓮ちゃんがスッと背筋を伸ばして立ち上がる。
「さて、休憩はここまでみたいだな。」
「え?」
振り向けば、さっきみたいな変な空間が次々と現れてきていた。
その穴から今度は手じゃなくて真っ黒の仮面を付けた人達がゾロゾロ出てきていた。
その腕には、長くて鋭い爪。
「ちょ、何アレ!!」
「追っ手だな。殺る気なんだろ。」
「そこまで一大事?!」
「ともかく大人しくしてろよ。
引っ掻かれたらいったそーだから。」
「絶対痛いどころの話じゃないよね?!引っ掻くじゃなくて引き裂くだよ!!」
「だよ、な!!」
落ち着いてそんな感想を呟く蓮ちゃんは、一呼吸置いた後地面を強く蹴った。
向かう先は追っ手らしき黒づくめの人々。肩にかけていたバックから竹刀をスラリと抜き出した勢いのまま、止まる事なくその中の1人を薙ぎ払った。ソイツは突然の出来事に防御する間も無くもろに攻撃を受けて吹っ飛んでいく。
すぐさま別の者が後ろから振りかぶるが、ヒラリとバックステップで避ける。空振りして隙が出来た所に蹴りを食らわせた。
更にもう1人が攻撃しようとした所で顎目掛けて竹刀を突き上げた。
やっぱ、強い。
蹴りと剣戟を組み合わせて舞うように闘う蓮の背中を見ながらただそれだけを思った。
相手も並みならぬ強さを感じとっているようで、動揺が伺える。そりゃそうだ、大丈夫、あたしもそう思ってる。
そんな揺らぎを見逃さず、蓮ちゃんは斜め上から切り上げた。相手は反射的に爪で受け止めるが、その強大な力に押されて数歩後ずさりしてしまう。
バキッ
「え?」
「ちっ、」
嫌な音がして、竹刀が折れた。
蓮ちゃんは苦虫を潰したような顔で舌打ちをしてから相手の攻撃を避けて手刀を食らわし、バックステップでこちら側まで戻ってきた。
「やっぱ無理だった。」
「無理だった。じゃないよ!!!
というか何で折れたの普通スパって切れるんじゃないのアレ絶対に蓮ちゃんの力に耐えられないで折れたよね?!」
「うっさいよ馬鹿。
・・・最初から期待はしてなかった。むしろ良くここまで持った方だよ。」
「そりゃそうだけど・・・こっからどうすんのさ。」
「まあ一択だな。」
いきなり浮遊感を味わう。
「キリないから逃げるぞ。」
「え、ちょ、また?!
というか俵担ぎ止めて吐く、吐くってば乱暴!」
「文句言うな。お前足遅いんだから。」
あたしが遅いんじゃなくて蓮ちゃんが異常に早いんだああああ!!!
と叫び声を残して、あたし達はその場から逃げ出した。
・・・せめておんぶにして下さい。
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