謎のイキモノ。





それは彼らが旅立ってからそう遠くない日の出来事。
彼が『異世界』と言う存在を知った衝撃的な出来事から数日後。
“狐の嫁入り”以降では初めての雨が、シトシトと降っていた日の話である。




「あ――――くそ!!!!
時間出来たからコッチまで来たけど、やっぱいい加減過ぎるだろこの物置!!!
やっぱ一回虫干しついでに全部出して整理しないと・・・って、ぎゃあああ―――!!!」




他の家事が早く終わった四月一日は、(店の店主曰く)宝物庫の掃除をしていた。
忙しなく且つ喧しく掃除に勤しんでいたら、変なものを鷲掴む。
手のひらには、めきょっと目をかっぴらいたウサギ的謎の生き物。
例の件でこの謎生物、モコナの世話もバイトの項目に勝手に含まれたが、たまにこうして家事をしているとちょっかいを出してくる。正直邪魔だ。
四月一日はベシっとその雪見だいふく黒バージョンを投げ出した。




「きゃー四月一日の乱暴ー!」

「混じるなっての!!
・・・て、なんだこれ。」




何故か嬉しそうなモコナに一吠えしながらも、再び掃除へ戻ろうとした際、四月一日はふと棚の上に置かれていたものに気づいた。
この宝物庫は普段からヘンテコなもので沢山溢れかえっているので他にも気になるものはあるのだろうが、何故かその時はそれに目を惹かれたのだ。


それは、綺麗な木工細工の箱に入っていた。
木箱の側面には小さい花と蝶が踊るように繊細に彫り込まれている。
その蓋が開かれているのを見て、ひょいと覗き込んでみる。




1つは耳が垂れた真っ白い猫の人形。


もう1つは十字架のついた赤い首輪をしている黒い猫の人形。


箱には、2つの猫の人形がどちらも目を伏せたまま揃って並べられていた。
対になった人形・・・モコナと同じようなものなのだろうか?
中身を見た四月一日は、ハテナマークを浮かべて肩に乗っているモコナに問いかける。




「お前の親戚だったりするのか?」

「違うぞ。モコナはモコナで、那古は那古だからな。」

「は?
取り敢えずこんままだとホコリ積もるだろうし閉めるか・・・」




よく分からない言い分にハテナマークを浮かべながらも四月一日は手を伸ばす。
パチッと、触れた瞬間静電気のようなモノが指先を走ったと感じた、その瞬間。




「あんぐっ」



噛まれた。黒い奴に。




「痛ってええええ!!
ちょ、離せっ、地味に痛いっつか歯あるのかコイツ?!」

「モコナもあるぞ!」

「何でも丸呑みなのに・・・?」

「そんなら歯の必要性どこにあるんだよ!・・・って、は?」



ブンブンと振り回していた腕を止めた。
のしっと頭の上に重みを感じる。
はっとなって箱の方を見れば、そちらは空っぽ。
恐らく、白い猫の方が頭に乗っているのだろう。
あまりの急展開についていけてない四月一日なんてそっちのけで、白い猫とモコナはのんびりと会話を交わす。




「久しぶりだな。シロナ。」

「うん、お休みなさい。」

「会話噛み合ってねえから!!
つーか勝手に俺の頭で寝ようとするな!
んでお前はいい加減口離せ!!!!」

「んあ?・・・なんや美味しくないやん。
串かつと思ったんやけど・・・。お前誰?」

「こっちの話だっつーの!」

「いいわね。今夜は串かつにしてもらおうかしら。」

「うぎゃあああ!」



耳元でいきなり第三者の声がして、四月一日はバッと振り返る。
反動で黒い猫が「にぎゃ!!」と変な声を出して吹っ飛ばされていったが、今の四月一日にとって知らんこっちゃなかった。
(因みに白い猫とモコナは飛ばされないようちゃっかり頭にしがみついてい
た。)


強制労働させられる事になった元凶、この店の主人。

壱原侑子がにんまりとした笑みでこちらをのぞき込んでいた。





「・・・久しぶり、侑子。」

「ええ。久しぶりねシロナ。」

「兄ちゃん酷いで!!別に吹っ飛ばすような事しとらんやん!」

「いやお前おもいっきし俺の指噛んでたから。」

「クロナも久しぶりー。」

「知り合いっすか?」

「知り合い、というか貰い物ね。
すっごく可愛いでしょ?」

「はあ。
つーか侑子さんの知り合いでこんなの作るって言えば・・・」

「絶っっっ対、あの陰険メガネじゃないから。」





地雷に触れたのか、物凄い嫌そうな顔で否定される。
たまたま侑子の手のひらに乗っかっていたせいでクロナと呼ばれていた黒い猫が握りつぶされ悲鳴を上げていたのを見て四月一日はうわあ・・・と遠い目をする。
運がないというか、巻き込まれ体質の不憫属性な雰囲気を感じる。
「あらいたのね。」と悪びれもなくあっさりとそういって手を離した侑子は、パチン、と話を切り替えるように手のひらを叩いた。





「さて、アナタたちが目覚めたということは、来るのね。」

「うん・・・そうなるかな。」

「来るって・・・」




四月一日が呟いた瞬間、急に甲高い音が響きわたった。
つい最近も聞いた音。庭からだ。
まさか、またこの前みたいなのが来るのかよ!!と思いつつも、四月一日は庭に向かって走り出していく。
その後ろ姿を、侑子達はじっと見つめていた。




「侑子・・・。」

「全ては、あの子達が決める事だわ。
―――でも、そう。」




出来る事ならば、どうか彼女達の結末に悔いがないことを。


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