恋月想歌11
※
早く、早くしなければ。心臓の軋む音が聞こえてくる。自分にそう多くの時間は残されていない。この身体はもう持たないだろう。その前に奴に話を付けて、この事態をどうにかしなければ。今更なんの意味があるのかと問われたら、何もないのかもしれない。そう、これは自分のエゴだ。それでもこの場所は、と思わずにはいられない。さっさと片付けてしまおう。そうしたら――。
「そうしたら、ようやく君に会いに行ける」
命の灯火が潰えようというのに、青年はとても幸せそうに微笑んだ。
※
目覚めた時には、見慣れた自分の部屋だった。育ての親である神父の“聖職者たるもの常に質素で慎ましくあれ”という意向で、本当に最低限のものしか置かれていない殺風景な部屋だ。テーブルとベッド、衣装棚くらいなものか。どれをとっても装飾のひとつもない、地味なものだ。
「私、どうしたんだっけ……」
ベッドに潜り込んだまま窓の外に目をやると、うっすらと月明かりに照らされる教会が見えた。周りは水を打ったように静まり返り、物音ひとつ聞こえない。どうやら今は真夜中らしい。ゆっくりと身体を起こすと、目の奥がズキリと痛んだ。頭がどうしようもなく重い。気だるさに耐えながら懸命にこの状況に至るまでの記憶を手繰り寄せる。
「確か、ミサが終わった後……」
ようやく糸口を掴んだ感覚を覚えた時、不意に甲高い音が静寂を切り裂いた。何かの動物の声――違う。人の声だ。
「悲鳴……!?」
[ 11/27 ][*prev] [next#]
[しおりを挟む]
戻る