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恋月想歌12


 途端に、頭にかかっていた霧が晴れた気がした。様々な思考が一気に溢れだす。そうだ。あの紅い瞳を見た瞬間に意識が遠退いたのだ――彼は人ではなかった? 村人を殺したのは誰だ。それに今の悲鳴は。
 気づけば家を飛び出していた。夜着ではなく、いつもの法衣を着たままだったのは幸いだった。
「嘘よ……ヴァンパイアなんて」
 息を切らしながらも、自らに言い聞かせるように呟いた。僅かな時間ではあったが、リムが接していたレストは人間そのもので、伝え聞く化け物などではなかった筈だ。けれど気を失う直前に見た彼は、明らかに何か別の存在だった。なのにそれを否定したがっている自分がいる。信じたくない――それは意図せずとも芽生えてしまった感情に基づいたものでもあり、恐怖ゆえのものであった。
 望まない事実をその目で否定するために、リムは駆けた。もし彼が本当に犯人でヴァンパイアなら、イーゼは滅びを待つしかないのかもしれない。垣間見た超常的な力は、人では到底太刀打ちはできそうもない。きっと違う、何かの間違いなのだと土を蹴る足に希望を込めた。もしその希望を失くしてしまった場合にどうするのかは、考えないようにした。そうでなければ、恐怖で気が狂いそうだった。



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