千夜に降る雨11
ゆっくりと、地の感触を確かめながら歩く。踏みつけた小枝がパキリと音を立てた。水分が抜けしなやかさを失ったそれは、いとも簡単に折れてしまった。時折吹く風は砂埃を舞い上げ、人々を痛めつけた。乾ききった土。申し訳程度に生えている雑草すら茶色く変色し始めていた。いつも行くあの森とは全く違う――。
砂埃が入ったのか、ちよは目を擦りながら家への道を急いでいた。
「暗くなりきる前には戻れそうね……良かった」
歩き慣れた道だ。あと何十歩か数えれば我が家に辿り着く。殆ど枯れて使う者もいなくなった井戸を左手に曲がれば、粗末で小さな家があった。
ガタガタと音を立てて立て付けの悪い戸を開くと、ちよは薄暗い家の中に向かって声をかけた。
「ただいま、母さま」
返事はない。ただ静寂の中に声が響くばかりだった。ちよはしばらくその場から動こうとしなかったが、やがて意を決したかのように奥の部屋へと足を進めた。板張りの床が不快な音を立てる。殺風景な部屋。そこにあったのは長い間使用され続けたのが窺える薄い敷布団、そして掛け物と思われるくたびれた布だった。
ちよはその横に腰を下ろすと、布団――正確にはその中に横たわる人物に対して再び口を開いた。
「……母さま」
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