×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
千夜に降る雨12


 その声にようやくちよの存在に気付いたらしい布団の中の人物は、重たそうに瞼をあけた。
「ああ……ちよ、帰ってきたのかね」
 喋るのと同時に、ヒューヒューと空気の漏れる音がした。蒼白な顔、抜け落ちた髪、痩せ衰え今にも折れそうな腕は、その人が病に蝕まれている事を十分すぎるほどに説明していた
「はい。ただいま帰りました」
「また、天狗の山に行ったのかい?」
「……」
 母は途切れ途切れに言った。その目は決してちよには向けられず、視線は中空をさまよっている。ちよの沈黙をどう受け取ったのか、枯れ枝のような指で顔を覆い、嘆き始めた。
「あぁ、なんと気味の悪い……いつもそうだよ。知っている筈のないことを知っている。行ける筈のない場所から帰ってきたと言う。恐ろしい、あやかしの子」
「……違う、母さま私は――」
「お黙り!お前の母親になった覚えなんて無いんだよ」
 ちよの言葉を遮り、その体のどこにそんな力が残っていたのか、という声で母は叫んだ。
「どうせ、私を殺すつもりなんだろう。あぁ、なんてこと……気味の悪い……」
 まるでうわ言のように繰り返される呪いの言葉に、ちよは母から顔を背け、唇を噛み締めた。



[ 12/20 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]


戻る