×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


15


 言い終えるや否や、用は済んだと言わんばかりにレミアスは踵を返した。結局、ルカの問にひとつも答えてはいない。言いたいことだけ言って、こちらの言葉など聞こうとはしないのだ。
 全身の血が沸き立つような感覚がした。関係ない、わけがない。ルカはもう踏み込んでしまったのだ。この人はいつもそうだった。何をしていようと、どれだけ不満を訴えようと、羽虫を追い払うが如く退け目を合わせようともしない。ルカの存在は軽んじられ続けてきた。陰謀の一端を嗅ぎ付けた今でさえそうだ。こうして塔に閉じ込めておきながらも、対話する程の価値もないと暗に告げていた。わざわざ、そんな事実を突きつけにきたのか。
「――いい加減にして! これでも貴方の娘で、この国の王女よ! 関係なくなんかない……いつまでも黙ってるだけだなんて思わないで!」
 半ば叫びながら、レミアスを引き留めようとその背中を追う。しかし、傍に控えていた従僕によってそれは阻まれた。男はルカの腕を掴むと離せと喚く暇もなく突き飛ばし、ルカは無様に床に転がった。
「こ、の……!」
「王に無礼を働き、命を取られぬだけましと思え! 元来お前など王宮に必要ないのなのだ。陛下のご慈悲に感謝せよ」
 ――従僕の態度にルカは絶句し、またそれによって己の認識が甘かったことを思い知らされることとなった。
 城に仕える臣下達は、少なくともルカが王女であることを認識した上で敬遠しているものと思っていた。
 しかし眼前の男の態度は、とても王族に対するものではなかった。まるで害虫でも見るかのようにルカを睥睨し、レミアスの背後を守って共に退室した。がちゃり、と無情な金属音が響く。しかしそれに反応する気にすらなれず、ルカは呆然と閉ざされた扉を見つめた。
「……何、これ」
 呟いた声は、酷く掠れていた。立ち上がることさえ出来ずに、ルカは今し方の出来事を脳内で反芻した。何度も同じ場面を再生しては、咀嚼し、その意味を飲み下そうと努力する。随分と苦労して我に返った時には、既に頬には幾筋もの雫が伝っていた。
 なんと惨めで、情けない話だろう。レミアス王は自分の父で、その血の繋がりは確かな筈だった。しかし、自分の王族としての名に意味があると思っていたのは、ルカだけだったのである。肉親としての情も無ければ、一族として認めてもいない。あの従僕の発言がそれを物語っていた。父はルカに対しては勿論、側近達にもそのように振る舞っており――それを、臣下達が認めている、ということだ。
 最初から、ルカの価値は無いも同然だったのだ。そんなことにも気付けずにいたのだ。否、気付いていたとしても、この身に流れる血に意味があるのだと思い込まなければ生きてはいけなかった。そうでなければ、孤独で気が触れるか、何かのきっかけで消えてしまっていたかもしれない。或いは、それを望まれていたのかもしれなかった。もうずっと昔から、ルカは囚人のようなものだったのだ。


[ 15/54 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]


戻る