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「……今まで何も知らずにいたって点では、私も同じか」
 呟きながら、自嘲の笑みを浮かべる。過去の自分に今の姿を見せたなら、果たして何を思うだろう。
 そんな他愛もない事を考えていると、唐突に物音が響いた。がちゃがちゃと、という金属がこすれ合う重い音に、ルカは息を呑む。出所を探ると、先程びくともしなかった扉の方からだった。
 何度か同じような音が繰り返され、扉が軋む。それが止んだかと思うと、無造作に鉄の板は内側へと開かれた。初めに現れた男はすぐ扉の脇に逸れ、跪いて頭を垂れる。それに続いた人物は重々しく床を踏みしめ、下僕に一瞥もくれることなくルカの前に姿を見せた。
 ――今度こそ、本当に呼吸が止まったのではないかと、ルカは思った。
「……おとう、さま」
 呟いた声は、酷く掠れていた。まともに発せられていたのかどうかも怪しい。ルカの父であり、エイリム王国の君主――レミアス王。眼前にいるのは紛れもないその人で、青灰色の瞳にルカを映していた。かつて、父とこんなに間近で対面したことがあっただろうか。額や頬に刻まれた皺までくっきりと視認できるのが、なんとも不思議な感覚であった。こうしてみると、その面差しは確かに自分のものと似ている部分もあるような気がした。
 王が何歩か足を進めると、更にその後ろに付き従っていた男が扉を閉ざす。それを合図としたように、レミアスは口を開いた。
「地下の研究室を見たそうだな」
 挨拶のひとつも挟まず、レミアスは淡々と告げた。その瞳からは暖かな感情は見出だせず、寧ろ指弾するかのように言葉が響く。決して娘の身を案じて様子を見にきた、というわけでは無いらしい。
 僅かに、胸の奥が疼く。自分でもそれが不思議だった。彼が娘に愛情を注ぐことなど有り得ないのだと、昔から知っていた筈だというのに。それどころかルカを閉じ込めた張本人だろう。そうでなければ、自分がここに居ることなど知りようもない。
「……研究室? 地下牢の間違いでしょう」
 引き連れている従僕たちの中に、例の男は見当たらない。その事に少しばかり安堵しつつ、ルカは強く問い返した。ちょうどいい。事件の全貌を把握する、絶好の機会だ。何せ、主謀者は目の前にいる国王その人なのだから。出来る限り情報を引き出してやると決意した瞬間から、ルカは矢継ぎ早に疑問を口に出していた。
「あの得体の知れない男は誰? あんな所に女の子を閉じ込めて、何をする気? あそこで何をしてるの……今までだって散々いろんな人を苦しめて、また何を企んでるっていうの!?」
 息継ぎもせず、一気に言葉を吐き出す。最後まで言い切った時には、すっかり呼吸が乱れてしまっていた。その間レミアスは微動だにせず、声のひとつも上げることはなかった。息を整えるために数拍おいた後、ルカは恐る恐る父の様子を伺う。
「何をしたいのかと思えば、それだけか」
 顔色ひとつ変えず、レミアスは言った。こちらの必死さなど気にとめる素振りもなく、父の目は無感情にルカを見返す。
「答える必要はない。お前には関係のない話だ。痛い目を見たくないのなら、ここで大人しくしていろ」


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