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 闇の淵から意識が浮き上がった時、ルカは見知らぬ場所にいた。瞼を持ち上げた瞬間目に飛び込んできたのは、灰色の天井と煤けた小さなシャンデリア。自分の部屋でないことだけは確実であった。
 両腕を動かしてみる。足も、特に異常は無いようだ。それを確認すると、ルカはゆっくりと身体を起こす。その途端、強い眩暈に襲われた。額に手を当て、目が回るような感覚が治まるのを待つ。そうして、ようやくルカは部屋の全体像を把握することが出来た。
 さして広くもない、質素な部屋だった。恐らく、大股で五歩も歩けば端と端を行き来できるだろう。剥き出しの石壁は陰気な印象を与え、隅に置かれた椅子とテーブルにはうっすらと埃が積もっていた。ルカが横になっていたのは、その反対側にある寝台だった。寝台、といっても木の台に布を敷いただけの固いもので、寝心地が良いとは言い難い。
「ここは……」
 自分は、マーシェル学院の地下にいたはずだ。エルシュという少女を見つけ、彼女を助けようとして――そこで意識を失った。直前に聞こえたあの声は、王と話していた男に違いない。ここに連れてきたのも奴だろう。陰謀を嗅ぎつけた鼠を始末する、ということか。それにしては身体を痛めつけられたような事実はまだ無さそうである。かといって、行く先が明るいとも思えなかったが。
 とりあえずは現状を正確に把握すべきかと、寝台から冷たい床へと降り立つ。その段階になって、ルカはふといつも親しんでいた重みが無いことに気が付いた。腰に吊っていたはずの剣が見当たらない。気絶している間に取り上げられたのだろう。こちらに武器を持たせておくほど、相手も迂闊ではないということだ。置かれた状況を考えれば当然のことだったが、やはり心許ない。
 立ち上がると、ルカはまず唯一の出入り口と見られる扉に近付いた。試しに取っ手を掴み、力を込めてみる。しかし鉄で出来た重い扉は、堅く閉ざされ開く事はなかった。おまけに部屋にある他の備品は古くて劣化した物ばかりだというのに、この扉だけはかなりしっかりとした造りをしていた。まるでこの部屋に誰かを閉じこめることを想定していたかのようである。
 次に、窓を確かめてみる。やはりそこにも鍵がかけられていたが、曇った硝子越しに外の景色を眺めることが出来た。地面が随分と下の方に見える。遠目に見えた濃紺の服を纏った女性は、恐らくは城で働く侍女だ。目に映る庭も建物も、見慣れたものばかりだ。それらの位置から、ルカは自分がいる場所を推測する。王城の敷地の片隅に、不気味な塔が建っていた筈だ。その昔、罪を犯した貴族らの懲罰に使われていた場所らしい。監禁するだけに留まらず、血生臭い所業も行われていたという。既に使われていないとはいえ、その存在理由は人々を遠ざけるのに充分すぎるものだった。城中を隅々まで遊び回ったルカでもあまり立ち寄ろうとはしなかった、あの塔。こんな形で内部の様子を知ることになろうとは。
「……罪人、ねぇ」
 窓にもたれながら、小さくルカはぼやいた。王の意向に背く者は、たとえ何者であっても罪人である。そう告げられているようだった。大勢の民を犠牲にし続ける王と、それを唆す存在と、止めようとしたルカと――罪とは、いったいなんなのだろう。


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