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7


「……騎士団には?」
「連中がこれしきで動くとは思わねぇな」
 即座に、ルカは自分の発した質問が愚かであったことに気付いた。今の騎士団など本来の役割を放棄しているも同然である。それを知ってあれほど悩んだというのに、未だに理解していない自分の心が憎らしい。あの組織に、期待などしてはいけないのだ。直接オルゼスに掛け合えば或いは、とも思ったが、彼の前でその名を出すことは憚られた。
「得体が知れないって、どういうこと? 相手の特徴とかは?」
 せめて少しでも状況を知りたいと、矢継ぎ早に問い掛ける。ルアスが心配なのは自分も同じだ。しかし次に放たれたゼキアの言葉に、ルカは閉口した。
「それを知って、どうする。自分がどうにかするとでも言うつもりか?」
 ある種の高揚感で浮ついて心が、一気に冷え切っていくようだった。声音から伝わる、拒絶の感情。ルカが最も恐れていたものだ。どうせ何もしない、何も出来ないのだろう。そう、言外に告げられているようだった。
 ――それでも、目を逸らしてはいけない。そう決めてきたのだから。竦みそうになる意志を叱咤して、ルカはゼキアの瞳をきつく睨んだ。
「確かに私は世間知らずだし、王族だけど立場も弱いし、持ってる力はたかが知れてるわよ……でも、出来ることをするの! 今、そう言ったところよ」
 きっぱりと、ルカは言い切った。大言壮語なのかもしれない。だか、始めから諦めるよりは余程いい。往生際が悪い、とでも言われるだろうか。それでもここで引き下がろうとはもう思わなかった。
 束の間、沈黙が重くのしかかる。ゼキアはすぐに口を開かず、無言でルカを睨み返す。その瞳には、微かに迷いのようなものがちらついているようにも見えた。
「……ルアスの知り合い、らしい。マーシェル学院の講師だとか言ってたから来てみたのはいいが、知らぬ存ぜぬの一点張りだ。挙げ句叩き出されてこの様だよ」
 視線を外すと、ゼキアは苦々しげに顔を歪めながら語り始めた。それに安堵と僅かな喜びを覚え、そして彼がこの場にいる理由に得心がいった。
「見た目とかは?」
「痩身で黒髪のぼさぼさ頭、目も多分黒、性別は男。……それぐらいだな。ルアスはシェイド、って呼んでたが」
 ゼキアが話す内容を、ルカはしっかりと頭に刻み込む。王城にもマーシェル学院の関係者が訪れることがある。見逃さないようにしなくては――そう気を引き締めたところで、ふと脳裏に城で目にした光景が蘇った。黒髪黒目の、痩身。それは王と密談していた、あの男にも当てはまらないだろうか。そこで交わされていた言葉、そしてゼキアが語ったこと、マーシェル学院。一つ一つが、糸で繋がっていくような気がした。
「学院に研究施設があって、ルアスを攫ったのは学院の講師で、じゃああの時話してたのって……」
「……何言ってるんだ、お前」
 突如ぶつぶつと呟きだしたルカに、ゼキアの不審そうな視線が刺さる。しかし、そんなことに構ってはいられなかった。もし、あの話にルアスが巻き込まれていたとしたら。
「まさか、とは思うんだけど。その人って見るからに不健康そうで、変な気配があったりしなかった? ……“影”みたいな」
 ルカがあの男が残した強烈な印象が、その気配だった。本能的な恐怖を掻き立てられるような感覚。とても人とは思えない、あの空気。そうそうお目にかかるものではないのは確かだ。一致すれば、間違いなく同一人物だろう。しかし、そんな偶然があるものだろうか。尋ねながらも半信半疑だったが、瞠目するゼキアに自分の推測は正しいと悟った。


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