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 言葉選びに苦心しながらもどうにか最後まで言い切ると、ルカは深く息を吐いた。恐る恐る、ゼキアの顔色を窺う。斜め後ろのルカの位置からはその表情を読み取ることは出来なかったが、彼が唇を動かしたことだけは分かった。
「聞いたのか」
 短く、ゼキアは問うた。何を、とは言わない。しかしその言葉が指す内容を、ルカは正しく理解した。
「……うん」
 ゼキアとオルゼスの関係、それにまつわる彼の過去。自分の知らない所で古傷を晒され、ゼキアが不快に思わないはずはないだろう。だからといって嘘を吐く気にもなれず、ルカは素直に頷いた。あの野郎、と小さく漏らされた言葉が耳を打つ。
「話は、終わりか」
 ややあって、ゼキアは平坦な声でそう言った。ルカを責め立てるような真似はしなかった。ただ静かに、掴んでいた腕を振り払われる。無理に引き留めておくことも出来ず、ルカはおずおずと自分の胸元に手を戻した。
「……ルアスにもきちんと話したいんだけど、また行ってもいい?」
 口実、というわけではなかったが、少しでも間を持たせようとその名前を口にする。事情を話しておきたいというのは事実だ。ルアスもまた、大切な友人の一人なのだから。
 尋ねた途端、ゼキアの身体が微かに震えた。また不興を買ってしまったかと一瞬身構えたルカだったが、返ってきたのは想像していたのとは違う言葉だった。
「――あいつなら、いない」
 奇妙なほどに緊張した響きで、ゼキアは告げた。その様子にどこか違和感を覚えながらも、ルカは慎重に言葉を返す。
「別に今すぐってわけじゃないし、都合が悪いのならまた今度出直してくるけど」
「……無事に帰って来れてたら、な」
 低く呟かれた内容に、ルカは眉を顰めた。何か不穏な空気が滲み出てはいまいか。俄かに胸がざわつき始める。
「無事にって、どういうこと? 何かあったの?」
 彼等が暮らす地区は、お世辞にも治安が良いとは言い難い。物取りも横行しているようだし、普通なら街中には姿を見せない“影”さえ現れることがある。ルカもそれを身を持って思い知らされていたし、そもそも悪漢に絡まれたいたルアスを助けたことから交流が始まったのだ。またもやその類の被害にあったのでなければいいが――そう憂慮するルカだったが、残念ながらゼキアの返答はそれを裏付けるものだった。
「攫われたんだよ。得体の知れない奴に」
 淡々と返された言葉をその言葉を咀嚼するのには、幾ばくかの時間を要した。理解した瞬間、ルカは叫ぶ。
「……攫われた!? 誰に! どこに!」
「そんなもの俺が訊きたいっての! そうじゃなきゃこんな所までわざわざ来るか!」
 遠慮も何もかなぐり捨てて食らい付けば、堪りかねたたというように相手も叫んだ。そこで、初めて視線が重なる。あまり顔色が良くない。目の下にはうっすらと隈も見える。よほど心配して探し回っていたのだろう。守りたい、と決意した傍からこんな事態になっていようとは。


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