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「……団長、ひとつお尋ねしても宜しいですか」
 周りが慌ただしく動き始める中、ついにゼキアは上座の人物に疑問の声をぶつけた。窘めるようなオルゼスの視線に気が付かなかったわけではないが、聞かずにはいられなかった。腑に落ちないことが多すぎる。
「ほう、いいだろう。言ってみろ」
 咎められるかぞんざいにあしらわれるかと思っていたが、意外にもファビアンは鷹揚に頷いた。それどころか、上機嫌にさえ見える。薄ら寒いものを感じながらも、ゼキアは意を決して口を開いた。
「なぜ、俺が呼ばれたのですか。騎士団なら、魔法師くらい他にもいるでしょう。緊急時にわざわざ学生を使う必要性が解らないのですが」
「……これは。活躍の機会を与えてやって文句をつけられるとはなぁ」
 そう言いながらも、ファビアンはますます笑みを深めた。気味が悪い。この男は、何を考えているというのだろうか。
「……理解出来ないものに盲目に従うのは危険だと思っているだけです」
「そんなに知りたいか? そうだな、その方が面白いだろう」
 にやにやと顎を撫でながら、ファビアンは言う。面白い、とはあまりにも状況に似つかわしくない言葉である。このままではデルカ村が、ゼキアの故郷が襲われてしまう。人の命がかかっているというのに、面白いとは何事か。怒鳴りつけたくなる衝動をすんでのところで堪え、ゼキアはファビアンの次の台詞を待った。
「“影”どもを火で囲むのに、この辺りの平野はあまり条件は良くない。背の低い植物しかなくて燃える物が少ないからな。奴らの巣がある森の中なら良かったが、既にそこはもぬけの殻だからな。だから燃える物がある場所まで誘導するんだ」
 弾んだ声で、ファビアンは語る。全く質問の答えになっていない。だが、一応条件が悪いことは解っていたのか――そう感心する一方で、ゼキアは話の内容に引っかかりを覚えた。誘導するといっても、本能のまま人を襲おうとする化け物をどうするというのか。群ごと元いた森に戻すというのは不可能に近い。よほどの奇策でもあるのか、それとも。
「……まさか」
 考えるうちにとある可能性に行き当たり、ゼキアは掠れた声を上げた。一つだけ、効果的な条件を満たせる場所がある。最も簡単な方法だ。しかし普通ならそんな手段を選ぶはずがない。縋るような気持ちでゼキアは騎士団長の顔を見上げ――その口元に、下卑た微笑みが刻まれているのを見た。
「そうだ。“影”どもはデルカ村へ向かっている。丁度いいではないか。奴らが餌に夢中になっている間に村ごと焼き払えば掃討は容易い。……自分の炎で故郷が焼かれるのを眺めるとは、なかなか面白い見世物だなぁ?」
「――ふざけるな! 村の人達はどうなる!?」
 頭が、沸騰するかと思った。もう敬語など使っていられない。激情のままにゼキアは叫んだ。その様を見て、ファビアンはさも楽しそうに喉を鳴らす。
「仕方がないだろう。近くの街道や大規模な街を守るのに、あんなちっぽけな村一つで済むなら良いではないか。尊い人々の犠牲になれることを喜んで欲しいものだな」
「この、下衆が……!」
 いかれている。そう思った。貴族とは、皆こうなのか。騎士どころか、人間の風上にも置けないような屑だ。その屑に頭を下げるような連中も、この上なく愚かであるとしか言いようがない。どうしたらこんな腐敗しきった組織なるのだろう。
 こんな人間達に、まともな対話を望む方が間違っている。早くこの作戦を止めなくては。否、村に知らせにいく方がいいだろうか。そうすれば、少なくとも皆を避難させられる。一瞬の間に考えを纏め上げて駆け出そうとしたその時、ゼキアの腕を掴んだのはオルゼスだった。


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