×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


25




「奴らに火をかける」
 オルゼスが口にした予想は正しく、ゼキア達を前にして開口一番に騎士団長――ファビアンは、“影”の群れに攻め込むことを告げた。
「それ自体が攻撃でもあるが、燃えて辺りが明るくなれば“影”共の動きも鈍って叩きやすかろう。なかなかに名案だとは思わんか?」
 上座で尊大に構えながら、どこか得意気にファビアンは続ける。オルゼスを含む部下らは黙して低頭するが、ゼキアは鼻で笑ってやりたい気分だった。“影”の特性を知っていれば、素人でも思いつきそうな内容である。あえて賛辞を贈る部分があるとすれば、ろくに戦ったことがなさそうな人間の考えにしてはまとも、という点だろうか。その程度のことを得意満面に話すのが騎士団の最高位のであるという事実が、非常に嘆かわしかった。それに、火をかけるにしても効果的な条件が揃っていなければ意味がない。彼がそこまで考えが回っているのかは怪しいものである。
「だが、生憎今は大規模な炎を使える魔法師がいない。火矢を使おうと思う」
 作戦の指示をしているはずなのに、動作も口調も随分と緩慢だ。それが余計にゼキアの苛立ちを増長させる。こうしている間にも、故郷が危ないというのに――。
 そう思いながら話を聞き流していると、突如ファビアンと視線がかち合った。こちらの態度に、勘付かれただろうか。緊張にゼキアは身を固くするが、投げかけられた言葉は全く予想外のものだった。
「――そこで、お前を呼んだ。矢に点けるための種火を作って貰おうと思ってな。炎の魔法を使うのだろう?」
「……はい?」
 無意識に語尾を跳ね上げてから周囲の視線に気付き、慌ててゼキアは口を閉ざした。全く、理解が追いつかない。なぜそれで自分に声が掛けられたのだろうか。
 魔法の炎を使う、というのは納得出来る。火矢は射る時に火を消さないための加工をする必要があるが、その点魔力の籠もった炎なら通常より消えにくい。のんびりもしていられない今の状況で、手間を省けるだけ省くのは当然だ。しかし疑問なのは、その役目をゼキアに振る意味である。仮にも“影”と戦うことを前提にした遠征で、魔法師が編成に組み込まれていないとは考えにくい。大群を焼くほどの魔力が無くとも、矢に点すための火種くらい作れる者はいるはずだ。わざわざ学生を呼び出して使う必要もないだろうに。
「どうした? 出来ないのか?」
 沈黙したゼキアに痺れを切らしたのか、ファビアンが答えを急かす。周囲の部下にも白い目で睨まれ、疑念を拭いきれないままにゼキアは頷いた。
「出来ます、が……」
「ならば、さっさとしろ」
 その言葉を合図に、脇に控えていた騎士がゼキアの前に松明を差し出した。これに点けろ、ということらしい。ちらりと松明を持つ男の顔を盗み見るが、仮面のような無表情から何も読みとることは出来なかった。有無を言わさぬ状況に、ゼキアは渋々松明に手をかざした。掌から流れ出た魔力は熱を持ち、瞬く間に煌々とした炎が松明に灯る。それを見たファビアンは満足そうに鼻を鳴らすと、準備を、と短く声を飛ばした。


[ 25/32 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]


戻る