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19


「……とにかく、今回はこれぐらいで済んだから良かったけど、気を付けてよ。ゼキアも、ルカも」
 諌めるように、そう付け加える。二人とも不服を唱えることこそ無かったが、無言のままだった。お互いに視線を外したまま、室内に息苦しい沈黙が流れる。しばらく経って、先に折れたのはゼキアの方だった。
「……解った、言い過ぎたのは認める。悪かったよ。ルアスにも心配かけた」
 苦々しげなその表情から見て、ルアスの言葉に完全に得心がいったわけではないのだろう。それでも一応は謝意を示したゼキアに、ルカの態度もいくらか軟化する。
「私も、色々迷惑かけたわ……ごめんなさい」
「分かれば、いい」
 ルカの謝罪の言葉に、ゼキアはぶっきらぼうにそう返した。とりあえず、この場は和解してくれる気になったらしい。その様子に、ようやくルアスは緊張を解くことができた。ゆっくりと息を吐くと、強ばった身体から少しずつ力が抜けていくのが分かった。ルアスから見れば、ゼキアもルカも恩人である。その二人の折り合いが悪いのは、決して喜ばしいことではないのである。
「本当にもう! 次は怪我したって治療してあげないんだからね」
「うーん、それは不味いわねぇ」
 冗談めかして言った台詞に、ルカが笑う。心なしか空気が和んだかに思えた、その時のことだ。がたん、という不審な物音が聞こえた。玄関の方からである。
「……なんだろう?」
 風で扉が軋んだか。しかし、それにしては妙な音である。もっと低く、鈍い音だ。荒っぽくノックしているようにも聞こえる。
「お客さんじゃないの?」
「だとしたらロクなもんじゃねぇな。まともな人間がこんな時間に来ると思うか?」
 きょとんとするルカの疑問には、ゼキアが応えた。外は既に暗い。夜に貧民街を出歩くなど、辺りを根城にする賊の類いぐらいなものか。そんな客の訪問は是が非でも遠慮したい。彼は警戒するように玄関を睨むと、手元に剣を引き寄せた。
「……それも、そうね。この辺りは危ないのがうようよしてるんだった」
 一瞬考え込んだ後ルカも状況を理解したらしい。愛剣に手を添え、同じように扉に目を向けた。こちらが訝しむ間にも、物音は続いている。ノック、ではない。何かが重いものが繰り返し扉にぶつかっている。断続的に衝撃を与えられた扉は、元の建て付けの悪さも相俟って徐々に留め金が歪んでいく。その合間には、種類の違う音も混ざり始めていた――がりがりと、まるで獣が爪を研ぐような。
「――冗談だろ?」
 ゼキアが何かを察したようだったが、彼が何か言うより相手の方が早かった。落雷のような轟音を伴い、扉は内側へと破られた。同時に、室内に飛び込んで来るものがあった。無惨に破砕された残骸の上に降り立った、黒い塊。それは埃を払うように頭を振りかぶると、目的の
対象へと視線を投げかける――その黒い眼差しと、目が合った。


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