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「まったく! 遅い遅いと思ったら!」
 ルアスは憤慨していた。ここまで声を荒げるのも珍しいと、自分でも思う。何故そこまで怒りを露にしているかというと、ゼキアが語った今日の出来事のせいである。
「北の森だって? しかも“影”に襲われて怪我したって? どういうことだよもう……ほら、そっちの手も出して!」
「あはは……」
 文句はしっかり言いながらも、苦笑するルカの腕に手を翳す。間を置かず現れた癒しの光は、着実にルカの皮膚を元の状態に戻していった。数こそ多いが、幸いにも浅い傷ばかりだ。ひとつひとつの治療にさほど時間は掛からない。あらかた話を聞き終えた頃には、目立った場所の傷は殆ど癒えていた。
「――はい、終わり。無茶ばっかりしないでよね」
「……主に無茶してたのはそいつだけどな」
 一通り仕事を終えたルアスの横で、ひっそりとゼキアがぼやく。小さいながらもその声は非常に冷ややかで、彼の苛立ちが顕著に現れていた。余程ルカの言動に許せないものがあったらしく、ゼキアの口からはしばしば棘のある言葉が飛び出していた。
「あら、最初に森に行くって言い出したのは貴方でしょ」
 しかし、ルカも負けてはいなかった。ゼキアの吐いた毒など歯牙にも掛けず、彼女は飄々と反論する。それが余計に彼の神経を逆撫でしたらしく、ゼキアは口元を引き攣らせた。
「お前が無理に着いてきたんだろ」
「ちゃんと許可は取ったじゃないの」
 一触即発、である。このギスギスとした空気も、いい加減に居心地が悪い。こちらは何かあったのではと身を切られるような思いで心配していたというのに、帰って来てまで気を遣わせないで欲しい。今にも言い合いに発展しそうな二人を前に、ルアスの堪忍袋もそろそろ限界が近づいていた。
「あれはお前が――」
「あーもう、そんなのどうでもいいよ! こっちがどんだけ心配してたと思ってんの!」
 更に言い返そうとしていたゼキアを遮り、ついにルアスは叫んだ。勢い余って叩いたテーブルの位置が歪んだが、気にするまい。二人が口を噤んだのを確認すると、ルアスは一気に捲し立てた。
「どっちが悪かったとか、子供の喧嘩じゃないんだから! それにね、ルカも気を付けなきゃいけなかったかもしれないけど、ゼキアもどうしたの! そんなにねちねちと!」
 指摘されると、ゼキアは気まずそうに目を逸らした。自分でも、感情を制御しきれていないことに気付いているのかもしれない。
 そう、普段の彼なら、こんな風に相手の落ち度をだしに傷付けるような言い方はしないのだ。面倒臭がりながらもきちんと諭して、後腐れのない接し方をしてくれる。それは自分や、周りとの関わり方を見ていれば解ることだ。しかし今は必要以上にルカを責めている気がしてならなかった。確かに、ルカの行動は軽率だったのかもしれない。だが、どうせ彼なら一人でもその少女を助けていた筈だ。それはゼキア自身がよく理解しているだろうし、それだけに先程からの様子に違和感を覚えて仕方がなかった。


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