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15

 まず聞こえたのはヴァルトの声だった。その傍らには変わらずシルがいる。しかし、真っ先にユイスの視線を奪ったのは彼らの背後にあるものだった。澄んだ薄緑の、巨大な結晶。海底の神殿で目にした物とよく似ている――いや、全く同じだ。ちょうど抉り取られていた穴に収まりそうな大きさだった。ユイス達が探し求めていた物に間違いない。だが、驚いたのはそれが内包していたものだった。
「……人?」
 結晶の中央。どこか氷水のようにも思える色の中に、一人の少女の姿が見えた。長い髪を編み、刺繍の入った長衣に身を包んで眠っている。結晶はさながら、彼女にお誂え向きの硝子の棺のようだった。ノヴァが言っていた時柱の核とは、まさか。
「その様子だと、彼女達は詳しい説明をしなかったんだな」
 投げかけられたヴァルトの言葉は、どこか呆れているようにも聞こえた。彼女達、というのがノヴァとメネを指していることは間違いない。海底の神殿についても既知であるということだ。もはや真実は、疑いようもない。
「時柱を奪ったのは、お前達か」
「見ての通りだよ」
 悪びれる素振りもなく、ヴァルトはあっさりと己の罪を肯定した。薄笑いを浮かべてすらいる。その様に、苛立ちと憤りが一気に膨らむ。多くの人が苦しむことになった原因をこうも軽々しく扱うなど、正気の沙汰ではない。
「まぁ、あまり怒らないでくれ。私だってなんの理由も無しにこんなことをしたわけじゃない」
「理由? そのせいで既に大勢の命が失われているのに、どんな理があるというんだ」
 吐き捨てるように問い返す。どんな訳があったとしても、彼等がした事に変わりはない。この期に及んで恩赦でも乞おうとでもいうのか。しかし、ヴァルトの答えはそうではなかった。
「それこそが望みだからね。まぁ一言で言うなら私怨だ。復讐なんだよ、これは」
 告げられたあまりにも身勝手で単純明快な言葉に、ユイスは一瞬虚を突かれた。私怨。復讐。そんなもののために、人々は苦しめられてきたというのか。
「……どんなご高説を垂れるかと思えば、私怨だと? 誰に何の恨みがあるかは知らないが、ふざけるな!」
 憤りを抑え込むのは最早不可能だった。高ぶった感情はそのままに、ユイスはシルに視線を移した。
「貴方もだ。風の精霊王とお見受けするが、何を考えているんだ。全て知っていて彼に協力しているのか」
 辛うじて口調は崩さなかったものの、刺々しさが声音に滲み出る。精霊に対する敬愛を、彼女に感じることは既に出来なかった。詰問されたシルは、静かに目を伏せ呟く。
「私は、ヴァルトの思うようにして欲しいだけ。今の私にはそれが全て」
 それきりシルは口を閉ざし何も語ろうとはしなかった。何故かは分からないが、随分と彼に肩入れしているようだ。こちらの話に耳貸す気は無いと見える。ならば、とユイスは身構えた。
「イルファ」
 小声で名を呼ぶと、未だに困惑した表情を崩さないながらもイルファが進み出た。なんであれ、時柱は取り戻さねばならない。精霊王が相手では力の差は歴然だが、彼女はヴァルトを守ろうとしているようだった。ならば、イルファに少しでもシルを抑えてもらい、ヴァルトを捕らえる。そうすれば交渉材料にもなるだろう。
 しかし、それを察したかのようにヴァルトが動いた。
「やめた方がいい、炎の精霊。大事な友達を傷付けたくはないだろう?」


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