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11

 これに相槌さえ打てなかったのは、仕方のない事ではないだろうか。実行しない前提で提案したつもりが真顔で返されたのである。この聖女様は、また何を言い出すのか。
 ついレイアの顔をまじまじと見返すと、流石に気まずくなってきたのかユイスから視線が外れる。今、引き止めておかねばまずい。
「……レイア。今なんと言った?」
「いえ、なかなか口はきいてくれないんですけど、敵視はされてないみたいなので……水の精霊に頼めば、私一人くらいならなんとかなるかと……」
 概ね想像通りの返答に、ユイスは深く息を吐いた。確かに彼女なら可能かもしれないが、実行に移すとなると不確定要素が多く危険すぎる。精霊達がこぞって口を閉ざすほどの何かが下に待ち受けているかもしれず、下手を打てば彼らの機嫌を損ねることになりかねない。ユイスとていざとなれば強攻策も厭わないつもりでいるが、あくまで最終手段である。
「出来なくもないのよー。行くの?」
「駄目だ。何があるかも分からないし、身を守る手段も無いだろう。イルファも連れて行けないんだぞ」
 レニィまでもがけしかけてくるが、素早くそれを却下する。例え精霊達が大丈夫だったとしても危険なことに変わりはない。海底に力なく沈むレイアを想像しかけて、ユイスは頭を振った。あまりにもぞっとしない話だ。
「……トレルの森に一人で突っ込んだ方に言われたくないです」
「一応私は剣も扱えるし、森ならイルファの力だって効果的だろう。一度行ったことのある場所だったというだけでも違う」
 不満気なレイアの言を撥ね除け、断固として譲らない姿勢を示す。しかし、そうした行動の意味も消え失せる出来事がユイス達を襲った。
「とにかく、もう一度近辺の精霊達に話を――」
 聞けないか、と切り出そうとした時、唐突に船が大きく揺れた。さして多くはない積み荷が崩れて音を立て、船乗り達の動揺した声が響く。そこへ更にギシ、と耳障りな音が重なる。揺れは徐々に酷くなり、立っていることさえ危うい。
「なんだ……!?」
 レイアと共に船の縁に掴まってようやく姿勢を保つ。反射的に空を見上げたが、天候は穏やかなまま出港時と変わらない。風も殆どなかった。突如として表情を変えたのは、海である。船を取り囲むように水が荒ぶり、渦を巻く。波は激しく船体を攻め立て白く泡立っていた。甲板はすっかり浸水し、乗員達も海水にまみれていた。男達が懸命に船を立て直そうと奔走するが、最早どうにもならない。原因は天候でも何でもない、不可視の力による理不尽な暴力だ――それが確信できるほどに、異常な事態だった。
「もう駄目だ、沈む――!」
 誰かが叫ぶ。まさにその瞬間、一際大きく船が傾いた。必死にしがみついていた船の縁から手が離れ、悪あがきも虚しく身体が宙に放り出される。
「きゃああっ!」
「レイア!」
 咄嗟に伸ばしたその手が掴めたかどうかさえ分からぬまま、ユイスは冷たい海水へと飲み込まれた。


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