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10

「ユイス様! 大丈夫ですか? 具合が宜しくないなら、言ってくだされば……」
 起き上がったユイスに気付き、慌てたようにレイアが身体を支えた。一瞬、軽い眩暈があったものの、すぐに治まる。クロック症候群の症状であったことは間違いが、レイアの反応を見る限り大きく容姿が逆行した、ということもなさそうだ。流石に内臓までは分からないが、体調はすっかり落ち着いたように思えた。
「大丈夫、久し振りの船旅で少し目を回しただけだ……私より、イルファの方が調子が悪いんじゃないか」
 レイアの頭を寝床にぐったりとしているイルファをつつき、ユイスは話をはぐらかした。今のところ行動に支障は無さそうなのだから、彼女に無駄な心配をを掛けさせることもない。それに、珍しくイルファに活気がないのは事実である。いつもなら文句のひとつも言いそうなものなのに、ユイスにさせるがままになっている。身体や髪の毛が濡れていたから、ユイスが水をかけた時に巻き込まれたか、またレニィと一悶着あったのだろう。
「レニィ、苛めるのも程々にしてやってくれ。一応、炎の精霊王の名代のようなものなんだ」
「分かってるのよー。ちゃんと手加減はしてるの。でも、そもそもこいつが落ち着いた振る舞いをすれば良いだけの話なのよ」
 つん、と顎を反らす仕草が幼い子供そのもので、ユイスは苦笑した。傍から見ればレニィもイルファも似たようなものだと思ったが、それは胸の内に留めておくことにする。そう決めて立ち上がり、ユイスは船の外へと目を遣った。
「着いたのか?」
「はい。見せて貰った石は、この辺りで引き揚げられたそうです」
 錨を下ろした船乗り達は、ちょうど食事を摂ったり昼寝をしたりと身体を休めている最中だった。波はそんな船を揺り籠のように優しく揺すり、穏やかな群青色が陽の光を受けて煌めいている。美しい風景ではあるが、見とれている場合でもない。ここを訪れたのは調査の為だ。
 そんなユイスの思考を読んだのか、レイアが先回りして口を開いた。
「勝手かとは思いましたが、ユイス様が目覚める前に少し精霊達に呼び掛けてみたんです。でも、話してくれなくて」
「話してくれない?」
 妙な言い方である。知らなかった、ではなく話すのを拒まれたというなら、トレルの森の時と同じように精霊達が人を遠ざけようとしているのだろうか。しかしレイアは首を振る。
「あの時と違って、呼び掛けに応じてくれないわけではないんですけど……ただ、話したくないみたいで」
 補足するレイアの言葉を聞きながら、ユイスは思案する。海底に街が沈んでいるというのは確かなら、精霊にとって何か忌まわしいことでもあるかもしれない。神殿では精霊の怒りを買ったがゆえに滅んだと聞いたから、可能性はある。しかし原因が何かとなると――。
「……分からないな。いっそ、自分の足で遺跡を歩ければ良かったんだが」
「はい。なので私、ちょっと潜ってみようかと思うんです」


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