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7

「ルーナの神殿から遣わされた者です。ジーラス大司教の命で、クロック症候群の治療法を求めてこの地へ来ました」
 淀みなくレイアが答えた。何か尋ねられた時にと、予め用意していた台詞である。無難な内容を並べただけのものであったが、それを聞いた途端イローは血相を変えた。
「――治療法が、見つかったのか!?」
 今にも掴みかかりそうな勢いで、イローはレイアに詰め寄った。人好きのする朗らかさは彼方へ消え去り、鋭く彼女を睨み付ける。
「……まだ、手掛かりがあるかもしれない、という段階だ。残念だが」
 たじろぐレイアを庇うように間に入ると、ユイスは静にそう告げた。イローは唇をわななかせたまま、その先を続けることはなかった。僅かの間、場は沈黙で満たされる。周りの客でさえ、イローの剣幕に驚き口を噤んでいた。不意にイローはその異様な雰囲気に気付いたようで、慌てたように笑顔を取り繕う。
「ああ、いや……何でもないんだ、気にしないでくれや! な!」
 ぎこちないながらも愛想笑いを振り撒くイローに安堵したのか、客達の視線はユイス達の席からゆっくりと逸らされていく。それを確認すると、イローは大きな溜め息と共にがっくりと肩を落とした。
「あの、ご主人……」
「悪かったな嬢ちゃん、びっくりさせて。ちょっと訊いてみたかっただけだよ。忘れてくれ」
 そう言うものの、イローの瞳には明らかに落胆の色が宿っていた。気遣わしげなレイアの追及を拒むように、扉を指し示して彼は言葉を重ねる。
「ほら、出掛けるんだろ。使者殿がお待ちかねだ、急いだ方がいいんじゃないか? 引き留めてすまんかった。じゃあな!」
 それだけ言い残すと、イローは足早に仕事へと戻って行った。口を挟む隙もない。何も聞いてくれるな、そう告げられているかのようだった。
「……急いだ方がいいのは事実だな。行こう」
「ユイス様……」
 呆然とイローの背中を見送るレイアの肩を叩く。彼の様子は確かに気になるところではあったが、ようやく訪れた使者に帰られても困る。イローのことは、また宿に帰ってから話をすることもできるのだ。レイアは何度かユイスの顔とイローの去った方とを見比べていたが、最終的にはユイスに向かって頷いた。
「終わったかー? 出発するかー? 待ちくたびれたぞー、おれ先に行くからなー!」
 こちらの心境にさして関心はないのか、会話が途切れたと見るなりイルファが宙に舞い上がった。かと思えば、あっという間に出口へ向かって飛び去っていく。
「またあいつは! 大人しくしていたかと思えば……レイア、いくぞ」
「あ、はい!」
 イルファに続き、ユイス達も慌ただしく扉へと歩き出した。
 ――一度だけ振り返って見たイローの後姿は、やはり憂いに満ちていたような気がした。


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