×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


8



 トレルの森、とそこは呼ばれているらしい。町を出て更に西、然程遠くはない場所にある。地の精霊王はその奥深くに住まい、人々の営みを見守っているという。目的地へ向かう道すがら、使者として訪れた青年が語った。
「聖殿――我々の場合は聖域と呼んでいますが、最深部に御神木があるんです。そこに地の精霊王は宿るとされています」
 ルオと名乗った赤毛の使者は、馬の背に揺られながらも淀みなく話を続ける。レナードの使者というからどんな人物が来るかと思えば、存外にルオは純朴な人柄であるようだった。大幅な遅刻は別の仕事が長引いたためだったのだと、こちらが申し訳なく思うほどに頭を下げられてしまった。こざっぱりと整えた容姿に、真面目な態度。年の頃はレイアと同じ程だろうが、ルオはレナードよりよほど立派な聖職者に見えた。
「いやぁ、それにしても感動ですよ。噂に聞く聖女様にお会いできるなんて!」
 説明する合間、ルオは瞳を輝かせうっとりと呟いた。図らずもその発言は聖女本人に聞こえ、同じ馬に跨がるユイスの耳に苦笑が響いた。
「そんなに、大層なものではないんですよ」
「何を仰いますか! 実際にこうやって精霊を侍らせているではありませんか。常人に成せることではありませんよ!」
 レイアの言葉に、ルオは猛然と反論する。彼の有するエレメンティアの力はなかなかのものらしく、朧気ながらもイルファの存在を知覚しているようである。侍らす、とは随分な言いようだが、当のイルファはどこ吹く風といった様子である。しかし、ルオの仰々しい物言いは不思議に思うらしく、ユイスの顔の横で首を捻った。
「おれ、ビスケットくれるって言うから着いてきただけなんだけどなー。大袈裟なやつだなー」
「……黙っててやれ」
 確かに彼にとっての最重要はそこなのだろうが、わざわざ若人の夢を壊す必要もあるまい。そう思ってひっそりとたしなめるユイスだったが、幸い今の言葉はルオに届かなかったようだ。
「一部では、精霊と心を通わせ人々を導く神の遣いだとも言われているんですよ。私も大仰すぎやしないかと思っていたのですが、今日そのお姿を見て確信致しました! 春の花のように可憐なお姿に、精霊を伴った凛とした佇まい……正に聖女と呼ぶに相応しい!」
「……そ、そうですか」
 レイアの困り顔など全く視界に入らないようで、ルオは馬上で熱弁を振るい続けた。レイアのエレメンティアとしての力が尋常でないことに異論はない。が、その実態を知っている者から見れば、少々その印象は美化され過ぎている。実際はただのじゃじゃ馬娘だ。精霊に好かれている分、厄介とも言える。本人にも実際との差についての自覚はあるらしく、弱々しく笑みを返すばかりである。そろそろ、助け船を出してやるべきか。
「ルオ殿。そろそろ、森に着くようですが」
 ユイスの指摘に、はっとしたようにルオは真顔に戻った。その仕草から見て語り足りないのであろうことは察するが、今は聖域への案内をしっかりとこなして貰わねば困る。


[ 8/26 ]

[*prev] [next#]



[しおりを挟む]


戻る