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「……そういえば、使いの者とやらは随分と遅いんだな」
 次のページを捲ろうとしてふと思い立ち、ユイスは腰帯に留めていた鎖を引き時計を取り出した。蓋を開いて時刻を見れば、短針は既に頂点に近い。朝と呼ぶにはとうに遅い時刻である。レナードが寄越すと言った使者は未だ訪れない。これでは、待つうちに本の残り二割も読み終えてしまうだろう。
「そうですね、確かに……神殿に行ってみましょうか?」
「そうだな。どうも、レナード司教は人を待たせるのがお好きらしい。忘れられてないといいんだがな」
 それについてはレイアも同じことを思っていたようだ。彼女の提案に、ユイスは即座に頷き返した。そろそろ堪忍袋の緒も切れそうだ。これ以上無為な時間を過ごしたくない。早速行動に移すべく席を立とうとすると、唐突にユイス達に声が掛けられた。
「あのー、お二人さんよ」
 振り返れば、そこにいたのは昨夜から世話になっている宿屋の主人――店名にもある、イローという男だった。髪の毛を短く刈り込み、恰幅の良い身体を持つ大男である。短い時間ながら話をして彼に持った印象は、豪快にして大雑把、といったものだった。しかし、今の彼はその印象とは全く別の様相である。身体を小さく縮こまらせ、妙に宿の入口の方を気にしている。落ち着きのない様子を不思議に思いながらも、ユイスは先を促した。
「……私達が、何か?」
「いや、なんか司教様の使いだとかいう奴が来てるんだけどよ、あんたらで間違いないか? 金髪の髪の長い子と、黒髪の少年って言うから」
 その内容を聞いて、思わずユイスは息を吐いた。こちらが痺れを切らした頃にようやくお出ましとは。
「ええ、間違いないです。こちらで待たせてもらってたんです」
 レイアが答える傍らで、ユイスはひっそりとイルファを小突いた。出発するぞ、という言葉の代わりである。なんだよー、と未だビスケットを齧り続ける口から抗議の声が上がるが、イローがいる手前返事はしないでおく。
「わざわざすまない。帰りがいつ頃かは判らないが、恐らく今晩も世話になる」
「そりゃあ勿論構わねぇが、あんたら何者だい? 司教様の使者だなんて……それに、クロック症候群がどうとか聞こえたけど」
 どことなく強張った声で、イローは早々に立ち去ろうとするユイス達を引き留めた。訝しげな表情からは、こちらへの不信感にも似たものを感じ取れる。わざわざ神殿の者が出向いてきたのだ、単なる観光客や巡礼ではないことを察したのだろう。このまましらを切るのは少々苦しいかもしれない。目線だけでレイアを見ると、彼女も同意するように小さく頷いた。ある程度、説明してしまった方が良さそうだ。
 


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