天弥見聞録 | ナノ


【SSまとめ】ツイートサルベージ+α。


どれも単品として上げるにはちょっと短いのでまとめてます。(閃の軌跡、TOZ、TOB、GE、ワートリ、東ザナ)


【すべてが灰と化す前に/閃】
 伸ばされた手は届かない。
「リィン教官ッ!」
 悲痛なユウナの叫びと共に崩落する足場は、俺とみんなを容易く引き離す。
 ――みんな、ごめん。分かっていたのにな。
 悲しませるような事をしてすまないと、今更謝ったところで届くはずがない。それでも、零れるものを押し込める事は出来なかった。
 ――これが俺の使命ならば、やり遂げなければいけない。
 己の中の力を限界まで引き出して、太刀を抜き放つ。全身を焼くような熱さが内側から襲いかかるが、打ち負けるわけにはいかなかった。

「未来を、道を切り拓けるなら、俺は……」

 命は、静かに燃えてゆく。


【追憶の路/閃】
 昼間は賑わっていた街も、夕暮れになると人影が疎らになる。人々は家に帰り、空は一日の終わりに向かって切り替わり――けれど、海の奏でる波の音だけはずっと変わらずリィンの耳に届き続ける。
「…………」
 陽が沈む。夜が迫る。掌を開けばそこには、大事な悪友が残した五十ミラコインがある。
 どんな想いで、この海を見ていたのか。
 どんな想いで、あの日全てを捨てジュライを出たのか。
「……クロウ……」
 ぽつりと名前を呟く。数多の思い出が蘇る。残酷すぎるほど、色鮮やかに。
 ――ったく、甘ったれめ。
 彼は軽くその頭を叩いてやるも、リィンからの反応は、ない。


【終幕/閃】
 甘ったれるのもいい加減にしろと叱咤し、自然と出たその言葉に、込み上げた笑いを押し込む。自分の心はどこにあるのか、今更問いかけるまでもないが。
「誰にも邪魔はさせねえ」
 見据えた先には、決意を固めた灰の騎士。
「俺とお前の最期の勝負を!」
 蒼と灰が駆け、緋の舞台で激突する。


【蒼の名を呼ぶ/閃】
 微睡みの中に、差し込まれる一筋の光があった。
 引っ張り上げられるのは、課せられた宿命がそうさせるのか、別の何かが心に宿っているからなのか。探しても答えは見つからない。少なくとも、現時点では。
 ――思い出せ。お前が成すべき事を。お前が、行くべき場所を。
 音のない声がして、ぼんやりとしていた意識は覚醒させられる。静寂に満ちていた世界は弾けて、白と黒で構成されていた空間には色が流し込まれる。
 落ちていく。どこまでも、落ちていく。ただ、その先に待つのは深淵ではなく、暁の如き光を湛えた薄明の空だった。
「…………」
 そうして、明日への鼓動は響き始める。
 宿命と想いによって永久の眠りの鎖を解かれた蒼≠ヘ、仮初めの命を抱えて、再び暗黒の意を持つ地へと静かに降り立った。
 冷え切った風が、白銀を揺らしていく。
 その緋に映し出された世界は、どうしようもないほどに昏かった。

「――――」

 僅かな逡巡と、短い追憶。
 そばに居る者さえも聞き取る事が出来ないほどの声量で呟かれたそれは、彼の心にのみ留められる。


【黄昏へと消えゆく/TOZ】
「もしオレが天族だったらなぁ、って、時々思うんだ」
 天遺見聞録を抱えて、スレイはそう言う。
「……唐突だね、随分と」
「唐突じゃないよ。イズチに居た頃からたまに思ってたって」
 ずっとみんなと一緒に居られるし、探検出来る時間だってすっげー長いし、ミクリオとも色々議論出来る。
「……」
 そんな事を思っていたのは君だけじゃないんだなんて、言えなかった。――自分がもし人間だったら。本当の意味で、一緒に歩めたかもしれないのに。
「けど、やっぱりオレ、人間でよかったよ。今はそう思ってる」
「どうして?」
 問えば、向けられるのはいつもの笑顔。
「人間のオレにしか見えないものがあるなら、きっと、天族のミクリオにしか見えないものもあるんじゃないかって思うから」
「……」
「だから、オレは走っていられる。夢を追いかけられる」
 ありがとう、そう言って、スレイは背を向ける。――何故だろう。不安になるのは。
「……ああ。僕もそう思ってるよ」
 振り払って絞り出した言葉。
 スレイの向こうの夕焼けが彼を拐ってしまいそうで、ほんの少しだけ、背筋が凍るような感覚がした。


【焔は風を導くか/TOZ】
 風が吹く。
「……あ」
 ライラのそばを駆け抜けて行ったそれは、何気なく指先に灯していた小さな焔を消してしまった。
「消えちゃったね。火」
 揺らめく焔の向こうには、風の守護者の姿が見えていた。――それが掻き消えるまでは。
「ライラ?」
「……」
 もう一度、焔を灯す。
「いえ。今夜も風が心地いいな、と思いまして」
 首を傾げたスレイに、ライラは向き直らない。星が瞬く漆黒を見上げたまま、指先の焔をそっと夜空へと飛ばす。
「どうか、彼の道を照らしてください」
 舞い上がる焔は風を帯びて、翠のあたたかな光になった。


【約束、故に/TOZ】
 果てのない蒼穹へと伸ばした手の隙間からは、どこかくすんだ青が見える。快晴だというのに、聞こえてきた咆哮はまるで雷鳴のようだ。
「……あー、眩しい」
 受け止めきれない陽光から視線を外して、ジークフリートをちらりと見遣る。
 かつてアイゼンが見ていた海は、同じくらい青かっただろうか。


【僕が僕である為に/TOB】
 僕には、何にもないはずだったんだ。使役される為だけに生きていた。命令をされれば命を捨てて特攻だってするし、消えろと命じられたら、何かしらの手段で自ら命を絶つことだって躊躇わない。
 世界に、色がなかったんだ。だけど、そんな世界の中にも、興味を引くものを時々見付けられた。羅針盤とか、本とか。心の奥の奥で、無意識のうちに反応していたんだ。
『聖隷はただの道具だ。それ以上でも、以下でもない』
 それでも。口をきくなと言われたり、ずっと道具として扱われていたから、僕は感情というものがどういうものだったか分からなくなった。封じ込められたそれは取り戻せるはずもなくて、僕はただ、命令に従うだけの日々を送っていたんだ。
 だけど、どうしてだろう。漂着したベルベット達を見た時に「助けなきゃ」って、思ったんだ。気が付けば駆け寄って、回復術をかけていた。どうか助かってほしいって、心から願った。ベルベットが目を覚まして、目が合った瞬間、怖くなって逃げちゃったけど。

『ライフィセット!』

 ベルベットは、僕に誰かを重ねて見ている、ような気がする。僕を見ているようで、僕じゃない誰かを見てる……気のせいかな。
 あたたかいなって、思った。ベルベットの手は、きっとたくさん業魔を倒してきたはずなのに。砲弾の爆風に吹き飛ばされて、海に落ちかけた僕を助けてくれたベルベットは、優しく笑いかけてくれて……あの時から、世界には少しずつ色が広がり始めたんだ。
 ライフィセット=\―それが、僕の名前。
 聖隷二号なんかじゃない、僕が僕である為の、大事な証。


【悠久の果て、その一つ/WT】
 未来は枝の如く分岐し、選択の瞬間は何度も訪れる。大が捨てられるか、小が捨てられるか、誰を救うか、救えないか、視えていてもそれから逃れる事は叶わない。
「そんじゃ、始めるか」
 そうして迅は一人、夜闇に紛れて姿を消す。
 常に揺らぐ未来への道を、最善だと思う方向へ導く為に。


【人がその名を言うのなら/GE】
 真っ直ぐに届いてくる。信じるから信じてくれという、唯一つの揺るがない想いが。
 真っ直ぐに向けられている。意志を宿した翠が、消えかけた防壁に群がるアラガミの合間から。
「あんたは死神じゃない! ――――撃て! ソーマッ!!」
 死の波が荒れ地を駆け抜ける。真っ直ぐに、一直線に。


【継承と、それから/東ザナ】
カズマへ

 思えば、お前にこうして手紙なんて書くのは初めてか? いつも直接言葉を交わしていたからか、妙な気分だな。悪くはねえんだが。

 お前が死んで、BLAZEがバラバラになって……色々あったんだが、アキたちが俺たちの魂≠受け継いでくれたんだ。俺らがいた頃よりもいいチームにしてやる、なんて言ってやがる。
 本当は墓参りついでに話しにでも行こうと思ってたんだが、オヤっさんたちの手伝いやら何やらでなかなか時間が取れなくてな。お前に話したい事が溜まっていくばかりだ。 当分先だろうが、俺がそっちへ行く時が来たらとことん付き合ってもらうからな。

  あれから、また居場所≠見付けられたんだ。俺が俺でいられる場所――オヤっさんたちがくれた”帰るべき場所”とはまた、違ったところだ。あいつらが俺を、暗闇の底にいた俺を引っ張り上げてくれたんだ。
 『ザナドゥ・リサーチ・クラブ』……普段は頭文字のアルファベット表記で誤魔化してるんだが、そんな部活≠セ。異界だの怪異だの、だいぶ現実離れした話になっちまうが……俺たちは何度も化け物と命懸けで戦って、杜宮を守ってきたんだ。
 情けねえ話だが、俺には初めはその力≠ヘなかった。武器を持って戦うあいつらを、黙って見ていることしか出来なくてな。アキのことも、BLAZEのことも、任せてくれと言われたんだが――どうしても、譲れなかったんだ。それで、あいつらと協力することにした俺は、自分の力が役に立たないと分かっていても、アキが巻き込まれた異界≠ノ飛び込んじまったんだ。
 アキはずっと、自分を責めていた。自分のせいでお前が死んだと……お前の代わりに、自分が死ねばよかったと。光が消えかかった目でそう話すアイツに、俺はどう言葉をかければいいのか分からなくなっちまった。
 ヤクザにまで手を出したBLAZEを探る中、あのガード下に呼び出されて、得体の知れねえドラッグを使ったアキと拳を交わして……元リーダーとしてみっともねえとしか言いようがないんだが、意識を手放すくらいボロボロにされちまったんだ。
 けど、アイツの拳を直接受けて分かったんだ。狂ってるように見えるが、アイツは変わってねえってな。ただ、前の方が拳は真っ直ぐだった……そいつを取り戻してやりてえって、俺は思った。
 でかい化け物に捕まったアキを助けに、状況も顧みずに飛び込んだ異界で、俺はようやく力≠得たんだ。アキを助けられる力を――お前が守ろうとした杜宮を、守れる力を。
 焔=c…俺がはじめから持っていた属性らしい。俺はそれを振るって、あいつらと一緒にアキを助けに向かったんだ。
「助けて」――そんな当たり前のことを、アキは今更言いやがった。思わず馬鹿野郎、って叫んじまったが……もっと早く助けられてりゃ、あんなことにはならなかったのにな。少しだけ悔いたが……過ぎたものは仕方ねえ。もう大事なもんを取りこぼしたりしねぇように戦うと、その時決めたんだ。

 その後、何度も死に直面した。何度も倒れかけた。けど、あいつらに恩を返すためにも、俺は最前線で体を張り続けた。……かつてのお前が、そうだったようにな。丈夫なのが取り柄だ、そいつを生かさなきゃ意味がねえ。腹括って、ただひたすらに、俺は俺の魂≠示したかったんだ。
 災厄の箱≠ネんてもんが現れた時、俺はふと、お前のことを考えた。お前だったらこんな時、どうするのか。どんな言葉をかけてやるのかって、俺の記憶の中にいるお前に、何度も問いかけちまった。

『――情けねぇぞ、シオ。こんな状況で、死んじまったヤツにすがってなんになるんだ? 自分の頭で考えて、立ち止まらずにとにかく動けーーそれがBLAZE魂だろうが?』

 お前ならこんな感じに答えるんだろうなって思ったんだが、どうだ?
 その話を後輩にしていたんだが、アイツはお前に会ったことがないのに、不思議とお前はそう言ってくれるような気がした、らしい。俺の中にお前の魂が受け継がれているんだってな。
 けど、俺はお前にはなれねえ。だから俺は俺のやり方で、あいつらとこの杜宮を――守りたいと決めたもんを、守り抜いてみせる。魂を示してみせる。
 まあ、お前も見守っててくれや。   シオ




2017/07/24 19:19

prev / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -