天弥見聞録 | ナノ


【Z SS】発売前に書いてた妄想デゼライ。

※誓約破ったら穢れ一気に集まってドラゴン化しちゃうとか? という妄想デゼライ。デゼルは誓約破ったライラを殺すべく追いかける、というツイに悶えた勢いで書いたので色々とアレ。
……どっかの分史世界で発売されるゼスティリアのお話です!(フライングの言い訳)




 赤の竜が、咆哮する。
 そこにはもう、彼らを包み込むように優しく見守っていた彼女の面影はない。
「そんな……嘘だろ、ライラ!!」
 悲痛な声でそう言ったスレイ。反応するかのように、唸るドラゴン。彼女が弟のように見守っていた彼の声さえ、届きはしなかった。
 呆然とする面々。ミクリオもエドナもアリーシャも、目前で起きた事が信じられず、その場から動く事さえ出来ない。
「お前ら! そこから離れろ!」
 羽ばたきが起こす風。それから何かを察知したデゼルが警告した時には、既に遅かった。
 ドラゴンが放った炎のような凄まじい熱風が五人を襲い、辺りが一気に灼熱の世界と化す。咄嗟にミクリオが霊霧の衣を発動させ、近くにいた三人を守るが、長くは保ちそうにない。
『……コロ……テ』
「!」
 熱風に混じって、そんな声が聞こえたのは気のせいではなかった。ライラが何と言っているのか、デゼルにはすぐに分かってしまった。
「……」
 彼が、ペンデュラムを握り締める。
 その直後、まるで樹木の陰の彼が見えていたかのように、ドラゴンはその大きな翼を広げた。
 逃がすわけにはいかない――いや、逃がしてはいけない。
「っ、待て!」
「デゼル!」
 月夜の空へ飛び立つドラゴン。
 膝をついているスレイの制止するような声は、走り出したデゼルには聞こえなかった。




「……デゼ、ル……さん」
 空を見上げながら、彼はどれほど走っただろう。ライラには少し離れた場所で追い付いた。自我が一旦勝ち竜化が解けたのか、元の姿で苦しげな表情を浮かべて蹲っている。だがその周囲には濃い穢れが舞っていて、迂闊に近付けない。
「お願いが、あります……」
「…………」
 言われなくとも分かっている――などと告げるのは、残酷すぎるだろうか。
 代わりにペンデュラムを構えたデゼルを見て、ライラは微笑む。言葉などなくても、デゼルが何を言おうとしているか、何をやろうとしているか、彼女は分かっていた。抵抗する気はなかったが、自身を乗っ取ろうとする誓約の反動が、それを許してはくれない。
「……完全に自我を失い、みなさんや誰かを傷付ける前に、私を……」
 言葉は途中で切れた。目の前に立つデゼルの姿が霞む。体が熱くなり、思考回路が機能を失っていく。反動には逆らえない。逆らえるはずもない。穢れに包まれる寸前、ライラの頬を伝ったそれを、デゼルは確かに見た。
「……分かっている」
 彼女に声が聞こえなくなってから、デゼルはそう言った。
 空いた手で拳を作るデゼル。現れた真紅のドラゴンが吼え、大気が震える。
『殺してください』
 あの時、掠れた声で聞こえたその言葉が嘘だったなら――今立たされている状況が夢ならば、今すぐにでも覚めてくれ。一瞬そう考えかけて、何を馬鹿な事を、と彼は自身を笑った。ライラを殺める覚悟をしたからこそ、ここまで追ってきたというのに。
 非情にならなければ、成せない事がある。それはデゼルがかつて言った言葉だ。
「…………」
 駆け出すデゼル。鋭利な牙を剥くドラゴン。
 彼の脳裏で柔和な笑顔を浮かべていたライラが、割れた鏡の如く砕け散った。




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お前がお前であるうちに。


2015/06/23 23:13

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