04

 言葉にして、愕然としたふうに目を見開いて口元を手で覆う。ちょっと可哀相だがこれも治療の一環だ。女性不信が病気かどうかはさだかでないので、治療という言葉がふさわしいのかどうかは置いておいて。
 床に座り込んで事実におののいている秋吉を、ベッドの上から見下ろして、膝を抱える。
「あのさ、秋吉の好きな男の子って、どんなタイプ?」
「おとなしくて、可愛くて、あんまり攻撃的じゃなくて、別に俺の言うこと聞けとか言うつもりはないけど、否定しないでくれる感じ」
「それ、女の子じゃ駄目なの?」
「……駄目じゃない、と思う……」
 秋吉が顔を上げる。その、もろに目からウロコが落ちたような表情を見届けて、釘を刺す。
「言っとくけど、好きじゃないのに付き合ってもらうのって最高に惨めだからね」
「……ごめん」
 しょんぼりしてしまった彼を、フォローするわけではないが、頭を撫でた。
「これからこれから。人生長いんだから、これから女の子を好きになるかもしれないし、男の子と恋に落ちるかもしれないよ」
 そうだ、人生は長い。けれど今の時期は今しかない。私だってこんなところで油を売っている暇はないのだ。とっとと夏休みになって渡英して、兄を探し出して殴り飛ばし、替え玉だとばれる前に入れ替わらなければ。
 ふんと鼻息も荒く決意を新たにすると、ふと秋吉が呟いた。
「比呂、すごいな」
 私は「比呂」ではないのですがね。
「すごいのは私じゃなくて、秋吉が話してくれたことだよ」
「いや、話したくなる感じがした。すごい」
「ちょっと尊敬した?」
「調子に乗るな」
「ちぇっ」
 唇を尖らせると、秋吉は破顔して続ける。
「でもお前、こういうの向いてるのかも」
「そうかな?」
「その毒のなさそうな顔とか」
 思わず自分の頬に手をやる。
「褒めてる?」
「たぶん」
 毒のなさそうな顔、という表現は初めてされたものの、無害そう、とか、人がよさそう、とはよく言われるので、それに近いものかなと思う。たぶん、美形でも不細工でもない中間的な位置にある顔立ちのせいだろうな。
「秋吉は、なんか毒ありそうだもんね」
「褒め言葉として受け取っておく」
「おっ、なんかかっこいいよ」
 皮肉っぽい笑みを浮かべた彼は、片手をついて立ち上がる。それから、私のほうに両手を伸ばしてきた。やや身構えると、手は頬に伸びてむにむにと揉まれる。
「にゃにをする」
「ははっ、ちゃんと言えてねえし」
 ベッドに座っている私の身体を跨ぐようにして、秋吉が膝をついた。
 秋吉の心のつかえはちゃんと溶けたのか、分からない。けれど、少なくとも女の子だって悪くないと思えるようにはなったはずだ。これから先、彼がどんな人とどんな関係を築くのか分からないけれど、少しでも助けになって支えになりたい。そう思うのは、彼がいい友人だからなのか、それともほかに理由があるのかは分からない。

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