05

 ほいほいついていったわけではなく、否応なしに引きずられたのだが。まあそこを訂正してもしょうがないだろう。ところで、危ないというのは。
「危ないって、どういうこと?」
「時々あるんだよ、お前みたいに外部から入ってきた無防備な奴狙って強姦したり」
「ヒッ」
 さっきの残念な彼はそんなことはしないだろうが、それはもう注意しなければならない。男目当てで襲って実は女でしたということになったら、相手は諦めてくれるだろうか、それともやはり、女でもいいやとなるのだろうか。なるだろうな。
「持ち上がりの奴は、どいつが危ないとか知ってるから警戒心高いけど、……まあ、自惚れて危機感持ってる奴も多いけど、それが正解かもな。比呂はそういう奴からすれば狙いやすいタイプだから気を付けろ。あとで危ない先輩教えてやる」
「あ、ありがとう……」
 狙われやすいタイプなのか、私。なんか、ショックだ。もしかして今までの人生でもそう思われていたんだろうか。
「やられても大抵泣き寝入りだからな。男に犯されたなんて、恥ずかしくて言えないだろ。証拠もないし」
「たしかに」
「比呂はぽやっとしてるから、気をつけろよ。まあ、俺や薫のそば離れなければ大丈夫だろ」
「守ってくれるの?」
 そう何気なく聞くと、秋吉は少し照れたように視線を逸らした。なんだ、可愛いところもある。少し心がほっこりする。
「なに、笑ってんだよ」
「いやあ、秋吉も可愛いとこあるよね」
「はあ?」
 小突き合いながら教室に戻ると、薫が近づいてきた。
「比呂、なんもされなかった?」
「告白まがいのことをされたけど、秋吉が来たら飛んで逃げたよ」
「なんだ、よかった」
 ほっと胸を撫で下ろすしぐさをして、薫がため息をつく。そんなに私は狙われやすいのだろうか。
 もしかして、と思う。もしかして、美人には手が届かないからそこそこの奴で手を打っておこうということか。いやでもどうせ同じ罪なら、可愛い子のほうがいいんじゃないのかな。いやいや待てよ、そういう子は警戒心が高いのだっけ。とにかく気をつけなければ。兄のせいでこんないらない気まで配る羽目になるとは。見つけたらまず一発殴り、そのあともう一発殴って、そして平手して金蹴りの刑だな。
 午後の授業はどうしても眠い。英語の先生のなめらかで流暢な教科書の朗読を聞いているうちに、だんだん目蓋が下がってくる。そのたびに首を振って眠気を払うのだが、我慢できない。大学時代をイギリスで過ごしたという本場仕込みの発音は、英語が得意な私でも何を言っているのかいまいち分からないため、子守唄になりやすい。周りを見ても、真面目に先生の英語を聞いているのはほんの一部である。舟をこいでいるかそれとも完全に腕を枕にして眠っているか、まったく聞かずに自分の勉強をしているかの三択だ。机の間をすり抜けながら教科書を読んでいる先生は、前者二通りの生徒の頭をぺちんと軽くはたきながら回っている。びっくりしたような寝ぼけまなこで頭を押さえて起き上がったのは、秋吉だった。あの、寝起き特有の不機嫌な目をしている。
 秋吉は最近授業中寝てばかりのような気もするが、テストとか大丈夫なのだろうか。とは言え、思い返せば夜中にトイレに起きると、秋吉の部屋のドアの隙間から光が漏れていることも多々あるし、もしかしたら夜勉強しているのかもしれない。そうだとしたら時間を無駄に使っている。
 私は叩かれるのはごめんなので、眠たいながらに前を向いてきちんとノートを取ることにする。
 午後の授業が明けて、放課後、自由時間だ。午後六時までに寮に帰ってくるならどこに行くのも自由だ。ただし私服で、である。制服で外に出ることは、禁止されている。おそらく、制服姿でのトラブルが起きてしまうことを避けるためだ。
「比呂、ゲーセン行こうぜ」
「うーん、体育あったし、シャワー浴びて昼寝したい気分……」
 近寄ってきた薫にそう告げると、優雅だな、と笑われた。秋吉はどうやら乗り気のようで、比呂は来ないのか、と問われた。
「今日はゆっくりしたい気分なの」
「女の子みたいだな、ゆっくりしたい気分なの」
「うるさい」
 ことあるごとに私に女の子みたいと言う秋吉にはもう慣れた。
「とりあえず、なんにしても一回寮戻ろう」
「おう」

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