母親の愛を知る間もなく先立たれ、誰とも家族になれなかった自分。
 家族になるっていうのは、心を通わせることなんだってずっと思っていた。だから、レイラと家族になれたらってほんのわずか淡い期待を抱いていたことは否定しない。それは、俺の身勝手極まりないその思いは、彼女自身によって引き裂かれたけれど、それは当然の報いだと思っている。
 銃を向けられた状態のまま、レイラが俺をじっと見た。毅然とした態度を貫こうとしてはいるものの、銃が怖いのだ、顔色はすぐれないしかすかに肩を震わせている。
「だから、モニカと相談して決めたわ」
「何を……」
「見えるものは全部あげる。ジェイミー、あなたに」
 それじゃ足りないのだということを、このうつくしい少女は理解していない。
「違う。俺が欲しかったのは……」
 愛している。それに対する肯定的な答えだった。レイラにも、俺と同じ気持ちでいてほしいと何度望んだか知れない。俺がほんとうに欲しかったのは、答えに付随するレイラの心だった。
 言葉だけならレイラはいくらでも俺に愛していると言えたはずだ。けれどそれを言わなかったのは、決して渡さないという気持ちを俺に知らしめたかったからで、見えるものだけなら俺は六年前にすべて手にしていた。
「俺が欲しいのは……レイラの心だ」
「ねえ。その銃ちょっと軽いと思わない?」
「……」
 見当違いな答えに、眉を寄せる。レイラが支えているから軽いのかと思ったが、何かトリックがあるのだろうか。
「二分の一の確率で実弾が入ってるらしいの。あとはからよ」
「どういうこと?」
「今からわたしを撃って」
 目を見開いた。
 レイラに銃を向けている今の状況だけでも理解できないのに、更に引き鉄を引けって?
「もしからに当たったら……ずっとそばにいてあげる。そしてずっとあなたのレイラでいてあげる」
 この状態、レイラの心臓に銃口が向かっている状態で撃って実弾に当たったら、ほとんど間違いなくレイラは即死する。
「……実弾に当たれば?」
 じっとりと、誰に銃口を向けてもかくことのなかった汗が背中に滲む。
 そんな俺を嘲笑うかのように、レイラは口角を上げて歌うように呟いた。
「運が悪いわよね」
「……」
「ジェイミーは今度は自分の手でレイラを殺してしまうのよ」
 ふたつにひとつ。「レイラ」でいようと決意した人形を手に入れるか、レイラの亡骸を手に入れるか。
 レイラの手が拳銃から少し離れた瞬間を見逃さず、俺は迷いなく銃口を自分のこめかみに当てる。そして、銃のその重みにため息をついた。
「今ここで俺が実弾を当てれば、きみはどうするつもりだ?」
 レイラは動じない。まるで俺がそうすることを分かっていたかのように。
 ゆっくりと撃鉄を起こす。死ぬのが怖くないわけはない。今まで、大義名分のもとにたくさんの命を奪ってきた。特に何の感慨も抱かずに残虐に。けれど自分の命となると話は別だ。都合がよすぎるかもしれないが、できれば寿命で苦しまず安らかに死にたい。
 だが、自分の手でレイラの命を奪ってしまうくらいなら。

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