ジェイミーは言っていた。鳥籠には監視カメラがついているって。実際わたしに何かあれば、モニカやジェイミーがすっ飛んできていた。なのに、わたしがこうして奪われたのに取り戻しには来てくれないのだろうか。やっぱり、モニカが裏切った? だからジェイミーはここに来ない? 来られない?
 わたしの口から零れたその名前に、アダムは眉を寄せた。
「まさかレイラ、あんな男に絆されてるんじゃないよな?」
 ふっと、部屋の空気が不穏なものになった気がして、たぶんそれは気のせいじゃない。わたしは幾度も殺気立ったジェイミーを見てきたし、そういうのの匂いには敏感なつもりだった。だから、アダムの顔色が変わるのも、手に取るように分かった。
「レイラ……あの男にどんなひどいことをされた……?」
「……何もされてないわ……」
「嘘だ」
 嘘かもしれない。でも、実際アダムに言えるようなことは何もない気がした。ジェイミーは普段はとても穏やかで、情けないくらいにわたしに優しい。あの鳥籠で起こることのすべては、一言で片づけられるようでいて、何時間と言葉を尽くしても足りないようだった。
 声のトーンが一気に下がったアダムに、怯えてベッドの上を後ずさる。それを追いかけて、彼はわたしを組み敷いて見下ろした。掴まれた手首から、熱が伝わる。妙に熱い。わたしの身体が、冷えているのかもしれなかった。
「やめて、アダム」
「あんな男の痕なんて、全部消してあげる」
「いや!」
 精一杯声を張っても、アダムには届かない。恍惚とした表情でわたしを舐めるように見て、着ていた淡いピンク色の部屋着を剥ぎ取った。下着があらわになって、羞恥に思わずぎゅっと目を閉じる。
「どこをどう触られた? 全部俺が上書きしなくちゃ……」
 神経を蝕む鈍痛に混じって、アダムの指や唇が身体に触れる感覚がわたしの肌をぴりぴりと焼く。胸元に吸いつかれ首を反らすと、熱い吐息が肌を湿らせてそこに巣をつくるようにまとわりついた。
「いや、アダム、お願い」
 逃げたい。こんなの嫌。
 ジェイミーよりもずっと稚拙な指がわたしの身体を暴くように探っているのから、逃げ出そうと身をよじる。わたしの抵抗をやすやすと片手でねじ伏せ、アダムは囁く。
「逃げるの?」
「……ッ」
「どこに? 今きみは、どこにも行けない」
「……!」
 どこに行ったってわたしはわたしじゃない。わたしの存在など誰も知らない。
 誰がそうしたとか、なぜそうなってしまったかとか、そんなことを考えても仕方ない。現実に、今わたしは、どこにも行けない。彼の脅し文句のとおりに。
「いや、アダム、やめて……!」
 わたしはとうとう泣き出した。泣いてどうなるわけでもないのに、溢れてくるものは止めようがなかった。必死でアダムの身体をはねのけて、でも六年もあそこで暮らして筋力も衰えたわたしがろくな抵抗をできるはずがなくて、大人のアダムの指はやすやすと下肢の付け根に到達した。下着の上からまさぐられて喉から悲鳴が漏れた。
「レイラ……」

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