階段を上る俺についてきながら、モニカがちょうど警察と連絡を取り合っている。街中に張り巡らされた監視カメラの映像を解析しているらしい。車のナンバーが完全に割れていれば、その車がどこへ向かったか明らかにするのは容易だ。
「コトブキチョウ方面に向かったみたい」
 それを聞いて、通路の前のボディガードが誰と結託して俺を裏切ったのか、ほとんど確信に近かったそれがはっきりと、断定に変わる。
「好都合だな、これでようやくギャングのトップを潰せる」
「……ジェイミー、ごめんなさい」
 俺の皮肉に、モニカが何度目か分からない謝罪をする。もう過ぎたことをやいやい言っても仕方がない。
「謝るのはレイラのために奴らの頭を吹っ飛ばしてからだ」
「……そうね」
 駐車場で、モニカが運転席に乗り込み、俺は後部座席に座る。助手席には、モニカのノートパソコンが開いた状態で置いてあった。
「それは?」
「強盗の瞬間が録画されてた。……見る?」
 アクセルを踏みながらモニカがノートパソコンを差し出す。突然の俺でもモニカでもない訪問者に驚いているレイラの頭を、ボディガードが細い金属棒で殴っている。そのまま、レイラがぐったりしたところを抱え上げ、かなり大きなボストンバッグに身体を折り曲げて詰めた。
 吐き気がするような映像だ。
「……モニカ。ついでだ、特攻要員を増やして、アジトを壊滅させろ」
「すでに手配済みよ」
「ひとり残らず殺せ。全員地獄送りだ」
 頷いたモニカの運転する車は、スタジアム方面に向かっている。木を隠すなら森の中、というわけだ。ギャングたちの潜伏先は、ドラッグがばらまかれている地域の目と鼻の先だった。
 せせこましい雑多なコトブキチョウ周辺は、車で通るよりも歩いたほうが早い。スタジアムの裏に車を停めて、俺とモニカは外へ出た。俺たちより少し前に指令を受けて到着していたとみられる構成員たちが俺に頭を下げた。
「行くぞ。鼠一匹逃すな」
「はい」
 ドヤ街を少し外れた、スタジアム寄りのひとけのない雑居ビルが立ち並ぶ界隈に、年若い柄の悪い男ふたりがしゃがみ込んで煙草を吸っている。ざっと辺りに目を走らせると、あった、監視カメラに映っていた黒のミニバン。ナンバーもモニカの言ったそれと一致した。
「なあ、坊やたち」
「……あ?」
 通行の邪魔なので、声をかける。ああ、こいつらラリってる。そんなことが分かるくらいにあやしい目つきをした彼らの片方を思い切り蹴り飛ばす。ドラッグで感覚も鈍っているのか、俺が蹴っても大した痛みを感じないようで、へらへらと薄ら笑いを浮かべながら起き上がる。
 これだからドラッグは嫌いなんだ。自分で自分が分からなくなるなんてまっぴらごめんだ。
「何すんだよおっさん」
「口の利き方には気をつけろ。俺はまだ、お兄さんだ」
 呂律の回ってない男をもう一発蹴り、転がす。手を上げて、背後の構成員に合図する。そのまま、モニカを従えて歩を進める。すえた臭いの立ち込めるこの路地裏は、あまりにもレイラに不釣り合いだ。
 ジャケットの上から銃身を撫で、レイラ、と歌うように名前を呼んだ。

 ◆

prev | list | next