「さあ、彼のボスとやらについて詳しく聞いて差し上げろ。あとは煮るなり焼くなり好きにすればいい」
「分かりました」
 男の腹部を蹴り飛ばし、三名いる拷問係それぞれの肩を激励の意味で叩いて回る。
 なるほどな、六年前の俺はもっときちんとレイラの身辺を洗っておくべきだったのだ。学校生活は途切れるから関係ないなどと言わず、交友関係すべてを把握しておくべきだった。
 ギャングのボスの目的がちらちらと港を求め光る船の明かりのように近づいてくる。
 何も奴らの目的は、ヨコハマをドラッグに染め上げて牛耳ろうという壮大なものではなかったというわけだ。もっと単純な、言ってしまえば幼稚な目的だったのだ。
 いくら密売ルートを潰しても大してへこたれていないようなのが気になっていたが、要は彼らにとってドラッグを蔓延させることが最終到達点でないのなら、それは当然のことだった。
 向こうは、俺たちを揺さぶってレイラの消息をたどることを考えていたわけだ。
「まんまとはめられたな」
「え?」
 ボディガードが、俺の呟きを拾って怪訝そうな声を出す。なんでもない、そう言い車に乗り込んだ。
 情報を引き出すためとは言え、レイラのことを喋ってしまった。どうせあの男は生きてあそこから出られやしないのだから関係ないが、今後気をつけておかなくてはならない。
 会社に戻る前に、着替えるために自宅に戻る前に、鳥籠へ向かう。
「レイラ」
 レイラはベッドの上で手鏡相手に髪の毛を梳かしていた。俺の来訪に気づいて、振り返る。
「髪が、伸びたわ」
「あとで切ってあげよう」
 レイラの身だしなみをととのえるのは、つまり髪の毛を切ったり爪を切ったりするのは、俺の役目だ。この部屋にはステーキナイフ以外の刃物を常備しないよう、細心の注意を払っている。
 手を伸ばしてレイラのやわらかな頬に触れる。レイラは、目を細めて言った。
「鉄……」
「ん?」
「鉄の匂いがする」
「……」
 自分で鼻呼吸をしてみるも、分からない。レイラは常にこの一定の環境を保った場所にいるため、匂いにことさら敏感だ。おそらく靴裏にでも、あの男の血がついていたのだろう。あとでラグを掃除しなくちゃ。
 レイラを抱きしめて、昂りのままにめちゃくちゃにしたい気持ちを抑えながら享楽にふける。レイラはただただ、俺をその細い身体で必死で受け止めている。
 なんて可愛い俺のレイラ。
「あっ」
 首筋に噛みつくと、あえかな悲鳴が漏れた。背中に爪を立てられて、そろそろ爪も研がないと駄目かなと、余計なことを考えて少しでも気持ちが乱暴になるのを抑える。
 終えて、身体を離してレイラを見下ろす。俺に脚を抱え込まれたまま荒い呼吸を隠しもせず震える瞼を閉じて余韻に浸っている。
 適当に身繕いして、一度部屋を出る。鳥籠のすぐ外に、レイラの日常生活に必要な刃物や掃除機などの電化製品が置いてあるクロゼットがあるのだ。その中から髪の毛を切るための鋏と身体にかぶせるケープを選び取り、再び入室する。レイラはシーツにくるまってぼんやりしていた。ベッドに腰かけてレイラの頭を撫でる。
「前髪だけを切る?」
 シーツで汗や汚れを拭いたレイラが、ベッドに落ちていたパンティを身に着けてシーツで自身をくるんだまま立ち上がる。ドレッサーの前の椅子に座り、はらりとシーツをほどいた。うつくしい白い裸体があらわになる。それにケープをかぶせてあげる。
「ジェイミーは、どういう髪型が好きなの?」
 思わず眉を上げた。
「俺か? そうだな……」
 女性の好みはもちろんある。髪の毛が長い人が好きだとか、できれば気の強そうな美人がいいとか。けれどそんな俺の価値観はレイラを前にすると瞬く間にかすんでしまうのだ。
「レイラに似合っていればいいと思うよ」
 レイラなら、たとえばロングヘアでもショートカットでも、刈り上げてあってもハニーブロンドでなくてもいい。
 ドレッサーに置いてあった櫛で髪の毛を梳き、一房取ってもてあそび、つむじにくちづけた。
「じゃあ、ジェイミーのしたいようにすればいいわ」

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