うちのカンパニーは表向きはIT関連の会社ということになっている。自分たちでハードをつくり、それに付随するソフトも製作する。必要なら周辺機器も。
 ここヨコハマに籍を置いている俺たちの牙城は、決して小さなカンパニーではない。こうして摩天楼のようなタワーをひとつ丸ごと掌中におさめる程度には儲かっている。そうでないと、裏稼業だって回らない。
 俺たちのカンパニーは、PCや携帯機器をつくるのが本業ではない。それによる収益を利用して街を守る、暴力的慈善事業団体なのだ。
 破壊に訴えても人はなびかない。そんなことは痛いほど知っている。けれど、世の中には悲しいことに破壊・暴力に訴え人々を服従させようとする人種が少なからずいる。そんな奴らに対抗するために、俺たちは、暴力に対抗するために暴力を行使している。
 この街を薄汚れた手から守るために、俺たちは自らをドブに捨てている。
 と言えば聞こえがいいだろうが、実際のところ、一般人からすればどういう経緯で薄汚れようと、薄汚れていることに変わりはない。つまり、俺たちも、俺たちが排除しようとする勢力も、同じなのだ。
 けれど別に理解を求めようというわけではない。俺はただ、愛するこの街が暴力という手段に走ろうと何だろうと、平和ならばいいのだ。
「サクラギチョウのほうは?」
「まだ平気。チャイナタウンから徐々に南下しているようね」
「ふうん……」
 すうと目を細め、ショットグラスに入った酒を飲み干す。頭の中で簡素な地図を描き、チャイナタウン周辺をぐるりと鳥瞰で探る。
 南下、ということは、港町のほうまではまだ手が及んでいないらしい。万が一、俺たちが尻尾を掴む前に港を通じて国外にブツが流出すると厄介だ。もちろんそうなる前に叩き潰すつもりではあるものの。
 唇を指でとんとんと叩き、煙草を吸おうと箱に手を伸ばすも空であることに気づく。モニカとは煙草の趣味が合わないので一本もらうというわけにもいかないし、新しい箱を開けるのも何か違う。ため息をついてスツールから腰を浮かせる。
「あら、帰るの?」
「気が変わった」
「あなたの可愛いラパンによろしく」
 皮肉って彼女のことを「ウサギ」と呼ぶモニカにほほえみ、立ち上がる。
 こつ、こつ、と靴の踵をしっかりと床につけ歩く。バーの出入口に待機していたボディガードに目配せし、背後につかせる。パスコードつきのエレベーターに乗り込んで彼がキーパッドをタッチしているのをぼんやりと眺めながらジャケットのポケットを探る。煙草の箱とライター、それに、キーケースに手が触れた。
 知らず口角が上がる。
 一気に、どこにも停まることなく落下していく箱の中で、俺たちは無言でいた。別に話すことがあるわけでもないし、俺は俺で、彼は彼で神経を研ぎ澄ませているのだろうし、沈黙が重苦しいわけでもなかった。
 エレベーターが一階に着いて、軽薄な音を立てて停止し扉が開く。降りて、俺は非常階段に向かう。
 非常階段の入口に立っていたボディガードに声をかける。
「頼むぜ」

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