食べかけのケーキを小さな備えつけの冷蔵庫から取り出す。続きはお風呂のあとのデザートにしようと思って残しておいたのだ。何より、一度に小さなホールごとは食べられない。
 わずか逡巡して、いけないことと分かっていつつベッドに寝転がって食べることにする。行儀が悪いってママは絶対怒る。歯磨きはいつするの、ってパパはきっとからかう。でもわたしにはパパもママももういないから。苺のソースとチョコレートのハーモニーを、口をもぐもぐさせながら楽しんでいると、扉が開いた。
「ジェイミー、……?」
 フォークを咥えたまま振り返り、入室者の名前を口にしたところで、異変に気がついた。
 いつもならにこやかに笑みを浮かべておもむろにこちらに近づいてくるジェイミーの足さばきが、乱れている。ぎらついて濡れた瞳がわたしを睨み上げ、思わず身を竦めた。
 ベッドでケーキを食べていたことを怒られる?
「チッ」
 足早にベッドまでたどりついたジェイミーが、舌打ちしてわたしの腕をねじり上げた。小さく悲鳴を上げるけれどそれをまるで気にも留めず、彼はわたしの首を絞めるようにその大きな手で掴んでベッドに身体を押しつけた。衝撃に、ぎゅっと目を閉じる。後頭部にぐちゃっとした感触があって、ケーキを頭で潰したことを少し遅れて理解した。
 そろりと目を開けて見上げると、ジェイミーがぎらぎらした瞳でわたしを見下ろしていた。いつもの優しさの一片も感じられない、冷たいのに熱を持ったその視線に、戸惑う。
「ジェイミー」
 こわごわと名前を呼ぶと、口を大きな手で塞がれた。
「んっ」
 そのまま彼のもう片方の手がわたしの着ていたネグリジェの襟元に伸びて、そのまま下に引き裂いた。シルクのネグリジェが悲鳴を上げる。思わず、口を塞いでいた手に自分の両手を伸ばし、太い手首を掴んでどけようと力を込めた。けれどまるで縫いつけたかのように動かないし、何より押さえつけられていて息が苦しい。
「んっ、んんっ」
 必死で呼吸をつなごうと鼻息を荒くしながら彼の手から逃れようと腕を突っ張る。彼の胸板に触れて押し退けると、ようやく口を覆っていた手が離れていった。
「ジェイミー!」
「……」
「いやっやめて!」
 裂かれたネグリジェを掻き分けて、ジェイミーの手がわたしの身体中をまさぐる。死に物狂いの抵抗もまるで意味を成さないまま、下肢の付け根に手が触れて一気に押し入ってくる。
 痛みはさほど感じなかった。けれど、やっぱりいつもしてくれるよりもずっと荒っぽくて、わたしは痛いよりも恐怖で身体が縮こまっていた。それでもジェイミーの手つきは容赦がない。指の付け根まで押し込んで、奥を探ろうとうごめく。
「いやだ、ジェイミー!」
 指が抜かれた。ジェイミーがわたしに覆いかぶさって、強く抱きしめる。ほっとしたのもつかの間、鼻を妙な匂いが突いた。煙草のそれとは違う、煙の匂い。何かが発火したようなその匂いを疑問に思うより先に、身体を衝撃が貫いた。
「あっ、あ……!」
 ジェイミーが、無遠慮に奥まで押し込んできた。視界に星が散る。
 そのまま、激しく揺さぶられて鈍痛に意識が飛びそうになる。知らず涙があふれてベッドシーツを濡らす。そのままジェイミーは、わたしの身体をひっくり返してまるで獣じみた体勢にして腰を掴んだ。目と鼻の先に、わたしが後頭部で潰してしまったケーキの残骸が迫る。
「あ、あっ、ジェイミー、やめて」
 突き動かされるたびに声が出る。それに混ぜて嗚咽を漏らしても、ジェイミーは一言も口を利かない。何に怒っているのかぜんぜん分からない。ベッドでケーキを食べていただけでこんなふうにされてしまうの?
 悲しくて、つらくて、初めてのときよりずっと雑に扱われて、何よりジェイミーが無言なのがこわくてこわくてたまらない。
 ケーキのスポンジが鼻に入る。むせながら、シーツを掴んで皺くちゃにする。
「うえ、うう」
 自分のうめき声が、まるで他人のもののように聞こえていた。

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