器用な手は、そのままわたしの制服を乱していく。スカーフを抜き取られ横のファスナーが下ろされる。そのまま、抵抗をやすやすと押しつけられてあっけなく上半身をインナーだけにされてしまって、スカートのホックにも手が伸びる。
「いや、ジェイミー」
 かぶりを振って逃げ出そうと身をよじる。ジェイミーの手は容赦なく、下着に伸びる。
「レイラ、いいかい。痛みやその他の感覚を、我慢しないこと」
 身体中あちこちに触れながら、彼は子守唄のように囁きかける。
「素直に感じると、いくらか楽だよ」
 鎖骨に熱い唇が押しつけられて、舌で胸元をまさぐられ思わず首を反らした。そのままジェイミーの指が、わたしの恥ずかしいところを触る。
「やめて、お願い」
 羞恥に悶えながら、ジェイミーに与えられる感覚を無視しようと足をばたつかせる。足首を掴まれて、大きく開かされた。閉じようとしたけれど、彼が脚の間に身体を押し込んできて、彼を挟むことしかできない。
 彼の指が、わたしの唇を割って押し込まれた。
「ん、ふ」
「レイラ」
 恍惚とした表情で、わたしが指に舌を絡めるのを見ている。実際にはわたしは、指を排除しようと舌を使っているだけなのだけれど、そしてきっと彼もそれを分かっているのだろうのに、指は更に深く押し込まれる。えずきそうになって涙を浮かべると、ようやく解放された。
 濡れた指を下肢の付け根に触れさせて、彼は無遠慮にそれを押し込んできた。鋭い痛みが、腰をぎくりと浮かせた。
「いっ」
「痛い?」
 何度も頷いて、自由な手で彼の太い腕を掴む。それでもびくともしなくて、指は我が物顔でわたしの中を蹂躙した。痛みと、経験したことのない感覚がないまぜになって、わたしの頭を殴る。彼の唇がわたしの唇に重なっても、ろくに抵抗できなかった。
 熱い舌が明確な意思を持ってわたしの舌を引きずり出して絡まる。分厚い舌で口の中を擦られると、どうしていいのか分からないほどに背筋が粟立って震えてしまう。ジェイミーの指先が与える痛みと、舌にもたらされる鋭いまでの気持ちよさが相まって、わたしの頭はひどく混乱してしまっていた。
 痛みと心地よさのどちらに針を振ればいいのか分からない。けれど、真ん中にいるわけでもない。針は大きく左右にせわしなく振れている。
「あっ」
 ようやく唇を解放されて、指がわたしの知らなかった感覚を揺り起こそうとうごめいているのを感じながら、わたしは大粒の涙が自分のこめかみを伝っていることに気がついた。けれど、気づいたところでどうしようもなかった。涙を見たくらいでは、ジェイミーはそれをやめてはくれないのだから。
 いつの間にか、わたしの手は抵抗をやめてジェイミーの肩に縋りついていた。そうでもしないと、乗っている小舟は不安定すぎて、ちょっとの刺激で振り落とされてしまいそうだった。
 ジェイミーの指は、わたしの感覚を完全に支配して踊らせていた。
「……そろそろいいかな」
 指が引き抜かれる。その動きにも反応して背筋を引きつらせると、彼は満足そうにため息をついて、着ていたスーツのベルトを緩めた。
「まっ……いやああ!」
 制止の声は、悲鳴にかき消された。いっそ暴力的なまでの質量が、わたしの中を掻き分けるように押し入ってきた。あまりの痛みに、悲鳴のあとは声も出なかった。目をぎゅっと閉じて彼の首筋にしがみつく。
 頭の奥で何かがちかちかと点滅するような鋭い痛みに、涙が次から次へと溢れては頬やこめかみを濡らしていく。がっちりと掴まれた腰の内側が、燃えるように熱い。
「……っ」
 火傷した、と一瞬本気で思った。それくらいにひどい痛みだった。
「レイラ、力を抜いて。深く息を吸って、吐いて」
 そんなのできるわけがなかった。まだ奥へと進もうとしている灼熱の杭に、わたしははくはくと空気を食みながら首を横に振る。
「痛みを、受け入れるんだ。そうすると楽になる」
 痛みを受け入れるなんてできっこない。せめて、深呼吸をしようと息を吸う。吐いた瞬間、わたしの身体の力がわずかに緩んだ一瞬の隙を突いて、彼は更に奥深くに入ってきた。
「いっ、あっ」
 じわり、額に滲んだ汗が粒となって涙と混じって流れていく。わたしの頭を抱え込み、ジェイミーは後頭部を撫でながらほつれた編み込みの束を丁寧に梳いた。
 今わたしを抱いているのは、まるで獣だった。ヘーゼルグリーンのぎらついた瞳がじっと見下ろしてくる。そこに、先ほどまでの軽やかな穏やかさは欠片もなかった。
 その、わたしを今まさに狩ろうとしているジェイミーの唇を、舌が這う。獲物を前にした舌なめずりにしか見えなくて、このまま食い殺される、そんな非現実的な実感が思考を覆う。
 じんじんと疼くように熱を孕んだそこを、ジェイミーはまるで自分の勝手知ったる場所のように這い回る。そのたびにずくん、と痛む。
 ジェイミーが、唇をわたしの耳元に近づけた。
「愛しているよ、レイラ」
 わたしの知っている愛は、もっとやわらかくていい匂いがして、それでふわふわと真綿でくるむような優しいものだ。
 こんな、痛くてヴァイオレンスで濃厚な青い匂いに追い立てられるものじゃない。
 厚い胸板に顔を押しつけて彼の着ているシャツが濡れるのも構わず涙を零す。香水と整髪料と煙草と、匂い立つ男の人の汗の香り。
「レイラ」
 何かに急き立てられるようにわたしの名前を呼ぶ彼の声は、少し上擦っていた。
 わたしは痛みの渦の中で、なぜだか、パパに語りかけていた。
 ねえ、わたし数学のテストで満点を取ったのよ。

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