04

「もう、美麗を泣かさないで」
「……はい」
「あと、隠したりしないで、ちゃんと言いなさい。美麗」
「え、あ、はい」

 まさか私に矛先が向くとは思っておらず、慌てて返事をする。
 パパはまだ何か言いたそうだったけど、ママはにこっと笑って頷いた。

「仁くんのことは、ちゃんとお母さまから頼まれているから、大丈夫なのよ」
「え?」
「美麗のことを、大事にして」
「……はい」

 にたっと笑ったママは、なんだかすべて――仁さんがヴァンパイアのハーフであることとか、私の血を飲んでいたこととか――を知っているふうであり、そうでないようでもあった。

「そうだ、クッキー焼いたの。食べる?」
「ねえ、ママ」

 今日こそ言おうと思って、私は口を開く。仁さんは甘いものが苦手だっていうこと。

「何?」
「仁さん、甘いの苦手なんだよ」
「知ってる」
「じゃあなんで……」
「母心よ」
「は?」
「ねえ、仁くん?」
「……はは……」

 何の話だろうか。仁さんは分かったみたいで、苦虫を噛み潰したような顔で笑っている。首をかしげた私に、ママが言った。

「理由があれば、気兼ねなく仁くんのおうちに行けるでしょ」
「……え」

 まさかそんな理由で、ママはせっせと生地を捏ねたりチョコを溶かしたりしていたのか。
 と、そこでそれまで黙っていたパパが、ふと口を開いた。

「美麗」
「ん?」
「朝帰りは、心臓に悪いからやめなさい」
「……」
「ん?」
「……うん」

 パパは、分かったならいい、と言って笑った。私も笑う。仁さんだけが、引きつった顔を浮かべていた。どうしたのだろうと思って、そっとテーブルの下で仁さんの手を握ると、びくっと反応して、それから柔らかく握り返してきた。

「仁さん?」
「……」

 ちらりと私に視線を向けて、仁さんは困ったように眉を寄せ、うまく笑いきれていない笑顔で呟いた。

「今更緊張で死にそうだ」

 私が笑うと、仁さんはもっと困ったような顔をした。



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